今年は半導体戦争が表面化か 米中台の緊張は臨界点に達する兆しも(後)
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ジャーナリスト
姫田 小夏米国には「中国が台湾の半導体に手を出す前にそれを阻止すべし」という議論がある。今や「半導体を制する者が世界を制する時代」となり、台湾をめぐる米中の対立は、半導体をめぐる攻防にステージを移した。「焦土作戦」という言葉が俎上に上る昨今、半導体産業から見た米中台の緊張は臨界点に達する可能性が出てきた。世界最大の半導体ファウンドリ(受託生産)である台湾積体電路製造股份有限公司(以下、TSMC)の動きから、2023年の米中台の動向と「台湾有事」の可能性を展望する。
台湾エンジニアの渡米が意味するのは
昨年12月、米アリゾナ州のTSMCの新工場で大々的なオープニングセレモニーが行われた。バイデン大統領も出席し「アメリカの製造業が復活した、アメリカは、今後数年間で世界経済のリーダー的地位に昇格するだろう」と述べた。『ドイチェ・ヴェレ(DW)』によれば、投資額は当初見込みの3倍以上の400億ドル(約5.3兆円)に、また生産するチップも当初予定の5ナノから4ナノに変更されたという。ここでは2つの工場の建設が予定されているが、これらが稼働すれば、年間チップ生産量は60万枚に達し、年間売上高は100億ドル(1.3兆円)に達する見込みだ。
他方、米ブルームバーグは昨年10月の段階で「米国は最悪のケースに備えて半導体エンジニアの避難計画を講じている可能性がある」と報道していた。台湾当局は、「米国による(エンジニアの避難支援や、既存工場や機械の破壊の)声明は聞いていない」と報道を否定しているが、シンガポールの『聯合早報』は「この式典に参加するためのTSMCのエンジニアとその家族300人を乗せたチャーター機がアリゾナ州フェニックスに到着し、今後合計 1,000 人超が米国に派遣される」と報じた。
昨年末、英『フィナンシャル・タイムズ』は「TSMCがドイツに工場を設ける計画がある」と伝えたが、台湾の中央通訊社は「現時点では具体的な計画はない」とするTSMCのコメントを掲載してこれを打ち消した。これは台湾が中国の顔色をうかがっている可能性がある。西側諸国でTSMCの拠点が増えることは、中国にとって“半導体争いの戦局”がいっそう不利になることを意味するためだ。
メディア情報は錯綜しているが、このまま座視すれば2030年には中国が世界最大のシェアを握る可能性が強い半導体について、米国は本気でこれを阻止する構えだということが見て取れる。
台湾で新規投資を進めるTSMC
24年に稼働を始めるTSMCの工場がもう1つある。高雄の新工場がそれで、ここでは7ナノ、28ナノのチップを生産するといわれている。これ以外にも、TSMCの本丸である新竹の新工場では次世代の2ナノのチップを生産する計画だ。
このようにTSMCは台湾においても新規投資を進めているわけだが、そんなTSMCからすれば「勝手に台湾を焦土にしてくれるな」と米国に文句の1つも言いたくなるのではないか。
米国の思考や発言にはまったく「台湾の人々の立場や生活」が欠落しており、米国にとって台湾は利益をもたらす手駒でしかない、そんな印象を強く受ける。台湾を駒に使うという意味では中国も同類だろうが、少なくとも中国は台湾の人々を同胞と呼び、統一後の生活は心配するな、と呼びかけている。
以前、筆者が住んでいた上海には、多くの台湾人も生活していた。上海はこの台湾人がもたらしたビジネスモデルを吸収しながら高度経済成長期に入って行った。「中国の成長力と台湾の技術力が組めば世界を制覇できる」──そんな言葉を耳にしたこともあった。この原稿を書きながら、それはまさにこの半導体を意味しているのだということを改めて思い知らされる。そして、頂点の座を奪われることを恐れた米国は、中国と台湾を引き離すためにあらゆる算段を尽くす──。
今年、米中台の緊張は臨界点に達する可能性は高い。その筋書きを描くのは米国だ。冒頭でカート・キャンベル氏の見立てを引用したが、「米中対立は広範におよび、世界経済を根本的に破壊するだろう」とする予測は、あながち外れたものにはならないだろう。
しかし、このような破壊性に富む焦土作戦など東アジアに持ち込んではならない。「諸刃の剣」の危険性はもっと議論されてもいいだろう。
(了)
<プロフィール>
姫田 小夏(ひめだ・こなつ)
ジャーナリスト。アジア・ビズ・フォーラム主宰。上海財経大学公共経済管理学院・公共経営修士(MPA)。著書に『インバウンドの罠』(時事出版)、『バングラデシュ成長企業』(共著、カナリアコミュニケーションズ)、『ポストコロナと中国の世界観』(集広舎)など。「ダイヤモンド・オンライン」の「China Report」は13年超の長寿連載。「プレジデントオンライン」「日中経協ジャーナル」など執筆・寄稿媒体多数。内外情勢調査会、関西経営管理協会登録講師。関連記事
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