バイデン政権主導の対中半導体規制に加わる日本 その狙いは
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国際政治学者 和田 大樹
米中対立が続くなか、日本はバイデン政権が主導する対中半導体規制に加わるようだ。バイデン政権は昨年10月、先端半導体の技術が中国に流出し、それが軍事転用(習政権は軍の近代化を目指して軍民融合を進めている)される恐れを警戒し、製造装置など先端半導体関連の対中規制を発表した。バイデン政権は自国のみでは規制が効果的ではないとして、先端半導体に必要な製造装置で世界シェアを持つ日本とオランダに対し、同規制に加わるよう要請してきた。今年1月に岸田首相とオランダのルッテ首相がホワイトハウスを訪問した際、バイデン大統領はその点での協力を求めたとみられる。
ここで読み解くべきポイントは、この問題の本質は貿易にあるのではなく、安全保障にあるということだ。1980年代に日本が半導体で世界を席巻したとき、それを警戒した米国は日本を日米半導体協定の枠組みに落とし込めたが、これと今回の「中国に対して半導体製造装置の輸出を制限せよ」というバイデン政権の要請は、米国からの日本への貿易圧力という点では変わらない。
しかし、決定的に違う点がある。それは防衛・安全保障面におけるものだ。製造措置の対中輸出により、中国がいつの日にか先端半導体を独自に生産・開発できるようになる物と見込まれ、それは中国のハイテク兵器の増強をもたらし、長期的には日本の安全保障を脅かす恐れがあるのだ。バイデン政権による対中規制はまさにこの懸念を背景としており、表面上は貿易規制だが、実際には安全保障上の問題と位置づけられる。
そうなると、国防を米国に依存する日本としては、これに異議を唱えることは難しくなる。仮に、対中半導体規制でNoと提示すれば、日米関係が冷え込み、中国はその政治的隙を突いて行動をエスカレートさせてくる可能性もある。中国の海洋覇権の脅威に米国以上に直面する日本としては、持続的で良好な日米同盟が必須となるため、“安全保障問題としての対中半導体規制”に同調せざるを得ない。
一方、中国側が反発するのは必須であり、日本政府もそれは承知のうえだろう。だが、日本が昨年末に中国からの渡航者への水際対策を強化し、中国がその対抗措置として一時的に日本向けの一般ビザ発給停止に踏み切ったケースとは事情がことなる。これは日中間の摩擦であったが、この半導体規制は米中の摩擦に日本が加わるという構図であり、加えて安全保障という高度な政治性を有する問題を含むため、中国側の不満はより強いと推測できる。対抗措置が取られるのかどうか、それがいつどのような手段で取られるのかは分からないが、中国側に1つのボールを与えることになったことは間違いない。
いずれにせよ、軍事のハイテク化において先端半導体は欠かせない。今後、先端半導体をめぐる競争はいっそう激しくなることから、日本としても独自に生産・開発、もしくはフレンドショアリング(友好国および信頼できる国とのサプライチェーン構築)を強化することが望まれる。現在、半導体製造の世界的大手TSMCが熊本県に生産工場を建設中で、昨年12月にはソニーが新たに半導体工場の建設を検討していることが分かった。今後、“先端半導体made in Japan”は日本の安全保障の行方を左右するであろう。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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