2024年12月23日( 月 )

『脊振の自然に魅せられて』「春の兆しを求めて」(後)

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 車谷へ続く登山道を進むと標高600m辺りから雪景色となった。幅10mほどの沢道を渡り、筆者の休憩ポイントに腰を下ろし、雪光景を見ながらチョコレートを頬張りホットミルクで体を温めた。ここにも小型道標を設置している。大きな右俣との分岐点である。右俣を積めると気象レーダーに届く。昨年春、後輩たちと、このルートを詰め藪漕ぎをして気象レーダーまで登った。

 休憩が終わり、一面の雪景色のなかを歩く。8月のお盆ごろに黄色い花を咲かせるオオキツネノカミソリの葉が雪のなかで繁茂していた。この周辺に生息地を伸ばし群生も増えてきた。夏が楽しみである。

雪原に佇むオオキツネノカミソリ(八月のお盆ごろ一斉に花が咲く ヒガンバナ科・球根)
雪原に佇むオオキツネノカミソリ
(八月のお盆ごろ一斉に花が咲く ヒガンバナ科・球根)

 マンサクの花を求めて沢沿いの登山道を登る。雪で登山道が分かりづらく、時々ルートを外した。先行したGPSおじさんの足跡が雪のなかに付いていたので助かった。朝日が雪に反射し見にくい登山道となっていたのである。太陽と雪に照らされ筆者の体は汗ばんだので、アノラックは途中で脱いだ。

 標高800mのマンサク谷へ着いた。久しぶりの山歩きで足が重く、普段より時間を要した。登山道から、ここまで3時間近くかかっていた。ここのレスキューポイントの表示板は、筆者がマンサク谷と命名したもの取り付けている。

マンサク谷の雪景色 黄色い標識がレスキューポイント
マンサク谷の雪景色 黄色い標識がレスキューポイント

 ザックを下ろしカメラと動画カメラを携帯し雪の谷へ入った。すでに1人の登山者が踏み入った足跡が雪原に残っていた。歩き方とこの地を知る登山者は彼しかいない。そう、 「GPSおじさん」である。

 マンサクが咲いていないか、空の方へ顔を上げながらさらに奥へ進む。しばらく歩くと、1本だけ青空に黄色いマンサクが咲いていた。カメラのレンズをズームしてシャッターを押した。さらに奥へ入る。いつも咲いている谷向こうのマンサクの木を見るが、花を付けていない。さらに顔を360度方向に回すが、黄色い花は見つからない。

青空に黄色い花を咲かせるマンサク(満作・マンサク科 園芸種より小ぶりです)
青空に黄色い花を咲かせるマンサク
(満作・マンサク科 園芸種より小ぶりです)

 今回はマンサクは1本のみか。あきらめてザックを置いた場所へ戻ることにした。辺りは一面の雪原である。朝が冷えたのか、雪は少し硬くなっていた。踏み締めると「ザク、ザク」と音がした。青空のなかの高い木々を撮影していると、遠方に丸くて白いものが見えた。気象レーダーである。足元の白い雪景色、山の上の白いレーダードーム、そして山の上の青空。見事な白と青のコントラストであった。ここからのレーダードームは初めてみる光景であった。

雪原と青空に佇む白い気象レーダー
(福岡管区気象台)

 ザックを下ろした場所に戻り、2度目の休憩をした。小さな谷のマンサク谷の水は、コロコロと春の音を奏でていた。季節によって流れる水の音も変わって聞こえてくる。また、小さな水たまりで太陽の光をキラキラと反射させ、春を告げる輝きで眩しかった。登山道と交差するこの沢は、登山者の心の安らぎを与える場所となっている。ここから縦走路となる矢筈峠まで登りが続くが、歩いて10分の距離である。

 休憩を終え、ここから戻ることにした。雪景色とホソバナコバイモ、マンサクに会えたことで十分満足した。時計を見ると帰宅する予定の時間となっていた。思わぬ雪景色に春を感じた山歩きであった。

(了)

脊振の自然を愛する会
代表 池田友行

(前)

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