2024年11月22日( 金 )

車載電池世界トップシェアCATLの疾走(後)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉 明鎬 氏

なぜCATLは世界トップに上り詰めたか(つづき)

 iPhoneをはじめとするスマホ向けの民生用電池の領域で世界No.1のシェアをもつ、グローバルな電池企業であるATLという会社がある。

 CATLはATL社から車載電池部門だけを切り離して設立された中国の電池メーカーで、ATLの技術がベースとなっている。すなわち、CATLの創業者は1990年代末、先にATLを創業し、民生用電池で世界的な地位を得た後、2011年、それを基盤にCATLを創業したということである。CATLが創業わずか6年で車載電池世界No.1に躍進できた、最大の理由はここにある。それでも初期のCATLは車載電池の分野で、技術力は日本や韓国企業に比べて劣り、価格的にも競争力がなかったため、2014年の世界市場シェアはたった2.1%に過ぎなった。そこへ、中国政府のEV産業育成の波に乗って中国でのEVの急速な普及を受け、CATLは爆発的な成長を遂げたというわけだ。

 中国企業のもう1つの強みは、原材料の確保にある。鉱物の採掘、加工、生産に至る全過程を中国国内にもっている。電池の素材の市場シェアも世界最高である。正極材のシェアは65%、負極材は42%、電解質は65%、セパレータは43%となっている。

 さらに、世界の競合他社に比べ、研究開発に投じる資金も多い。ライバル社は売上高の5%以下を研究開発に使っているのに対し、CATLは7~8%を使っている。このようにいろいろな要因が相まって、CATLは世界シェアトップの座に上り詰めたわけだ。

最近の新製品の可能性は

電気自動車 イメージ    米タイムズ紙は、中国のCATL社の「Qilin(麒麟)」という電池を「我々のライフスタイルを変えた発明品の1つ」に選定した。CATLが今年第一四半期に量産を開始するこの電池は、1回の充電で航続距離は1000kmであると言われている。この電池の特徴は、サイズを小さくしたにもかかわらず、エネルギー密度は高めた点だ。加えて、冷却することによって充電も早くすることを実現した。充電量を10%から80%まで引き上げるのに、わずか10分しかかからないという。

 これだけではなく、同社ではLFP(リチウムリン酸鉄電池)に比べ価格競争力と航続距離を改善した新型M3P電池の量産を本格化する。M3P電池は既存のLFP電池と比べて、生産原価は低いながら、エネルギー密度を高めた次世代技術として評価されている。M3P電池はLFP電池で鉄という原料を取って、マグネシウムと亜鉛、アルミニウムなどを混合して使っている。これによって、エネルギー密度は理論上、15%まで高められるという。

 CATLが発表した通りのことが実現すれば、NCM電池を中心に投資を続けてきた韓国電池メーカーには大きな脅威となり得る。NCM電池では価格競争力があまりないため、韓国電池メーカーもLFP電池の生産を計画しているが、CATLは韓国企業のそのような動きをけん制するかのように、次の手を次々繰り出しているのだ。

 日本と韓国の電池メーカーは、「電池のゲームチェーンジャー」として全固体電池の開発に力を入れながら、中国のCATLは全固体はまだまだ技術的な課題が多く時間がかかると判断。既存のLFP電池と構造がそれほど変わらない新技術を先に導入し、市場を制覇しようとしている。一方、今まで中国企業は価格競争力を武器に自国市場でシェアを拡大してきたが、今後は技術的にも韓国などを圧倒する可能性があると専門家は指摘している。

 勢いに乗った中国企業は舞台を世界へ移し、世界市場を制そうとしているが、他の国は中国の台頭を傍観しているわけではない。また、中国政府は2022年末、EVの普及促進のために支給してきた補助金を(所期の目的を達成したとして)廃止したが、それをきっかけにEVの販売が急速に冷え込みつつある。テスラの価格引き下げなど、電池市場での真剣勝負はこれからが見どころであろう。

(了)

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