【経済事件簿】糸島のリゾート住宅地 伊都ハイランドが背負う十字架
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糸島市志摩岐志。立石山の緑と、その先に広がる海の青が、美しいコントラストを生み出すこの場所に、伊都ハイランド(以下、ハイランド)はある。都会の喧騒を離れ、特別なひと時を過ごすリゾート住宅地として、申し分ないロケーションを誇るハイランドだが、管理会社と住人とのトラブルがさらなる発展の障害となっている。
開発の陰で顕在化する過去の事情
ハイランドの管理を担っているのは、同名の(株)伊都ハイランド。より良い住環境の提供を目的に、ハイランド内の巡回・巡視、道路(私道)・私水道設備・側溝・電灯などの維持管理を行っている。
また、同社は管理業務以外にも不動産開発や不動産販売・仲介業も手がけており、2019年には、目の前に海とビーチが広がる「Itoshima Beachfront Homes(呼称:ビーチフロントホームズ、全7区画 /売主:(株)サスケハナ(同代表))」を完売。21年には新たなオーシャンビュー分譲地の販売に着手したほか、厚切りの刺身が盛られた海鮮丼で有名な「糸島食堂 伊都ハイランド店」をオープンさせるなど、飲食店エリア「ITO HIGHLAND THE MARKET(伊都ハイランド・ザ・マーケット、以下マーケット)」の充実も図った。マーケットはドライブやツーリングコースとして人気が高い志摩サンセットロード沿いということもあり、地域住民や観光客たちが詰めかけ、平日でも行列ができるほど賑わいを見せていた。
不動産開発や誘客効果を発揮するテナント誘致に取り組むことで、ハイランドの資産価値向上に尽力していた同社。評判も上々で、一見順風満帆のように見えていたが、実際には過去のしがらみにとらわれ、思うように事業を展開できない状態に陥っていた。
エメラルドパーク時代の徒花
ハイランドのもとになっているのは、バブル時代のリゾート開発ブームに乗り、エメラルド観光開発(株)が開発・管理運営を手がけていた複合型リゾート施設、芥屋エメラルドパーク(以下、エメラルド)だ。
エメラルド観光開発は、当時の志摩町に対してエメラルド内の私道約7kmの公道移管について相談するなど、バブル崩壊後も事業継続に向けて手を打っていたが、業績は伸び悩み、07年11月末までに事業を停止。破産という結末を迎えた。
同年、そんなエメラルド観光開発から、エメラルド内の不動産・私道・井戸給水設備などを買い取った不動産会社が、(株)伊都ハイランドパーク(現・伊都ハイランド)だった。伊都ハイランドはエメラルド観光開発から事業を承継したわけではない。あくまで、不動産やインフラ設備を買い取っただけである点に留意が必要だ。
エメラルド内は伊都ハイランドの私有地となり、インフラ設備も伊都ハイランドの私有物となった。この時点で、ハイランド内にはエメラルド時代に不動産を購入した不動産所有者やマンション区分所有者が約430名いた。彼らには、インフラ設備の利用に際して、利用料金の支払いが発生するようになった。伊都ハイランドはさらに、彼らと管理委託契約を新たに締結することなく、エメラルド時代同様、管理費を請求している。そして、このことが一部の所有者との関係性を悪化させる原因となっている。確認できたものだけでも、15名以上が管理費の支払いをめぐり伊都ハイランドと裁判で争っており、同社から送付された管理費の値上げ通知に対して、60名以上の住人や不動産所有者が、管理費の値上げに対する根拠の説明を求めている(出稿時点)。
伊都ハイランドは、ハイランド内の巡回・巡視、私道・私水道設備・側溝・電灯などの維持管理を行っているようだが、住人や不動産所有者は、雨漏りや埋設水道管の腐食、給水ポンプの老朽化への対応を求めるなど、管理実態については双方の間で乖離がある。新たな管理委託契約を結ぶこと、そのための事前協議を開催しなかったことで、管理費の支払いをめぐる両者の意見は平行線をたどり、裁判にまで発展している。
ただ、先述の通りすべての住人・不動産所有者が管理費の支払いに関して異議を唱えているわけではない。エメラルド時代と変わらず、伊都ハイランドの請求に応じて管理費を支払い続けている住人もおり、このことが事態をさらに複雑にしている。訴状によれば、管理費の支払いを拒否している住人のなかには、倒産したエメラルド観光開発が口頭で約束していたという諸条件が実現されていないことを理由にしている住人もいる。この諸条件というのが、高いセキュリティ機能(金属製の扉の設置、警備員の配置)、送迎サービス(エメラルド~JR筑前前原駅間のバス運行)、当時鹿児島県霧島市で計画されていたという、リゾート施設の利用料金割引サービスの提供などである。
伊都ハイランドがこれらのサービスを履行するなら、管理費を支払うということだが、同社はエメラルド観光開発から事業を承継したわけではないので、サービスの実現に取り組むかは不透明だ。とはいえ、管理費は伊都ハイランドにとって貴重な収益源であり、このまま捨て置くこともできない。未払いになっている管理費の総額は、1億465万円(22年6月末時点)まで膨らんでおり、管理費の支払いを求めて複数の裁判が続いているというのが現状だ。
伊都ハイランドの事業継続意欲は
実は伊都ハイランドは17年に一度、株式譲渡の提案を行うという内容の文章が出回ったことがある(当時は伊都ハイランドパーク)。文章によれば株式の売却希望額は20億円。提案書には期待される収益事業として、(1)管理運営事業(水道事業も含む)、(2)新規分譲戸建開発事業(既存物件の再開発も含む)、(3)既存ホテルや新規店舗(レストランなど)への賃貸事業の3つが柱として紹介されている。
最終的に譲受先は現れなかったため、再び豊かな自然に囲まれた快適な暮らしの提供を目指し、ハイランドの管理業務に励むことになった同社だったが、コロナ禍の22年に一部で買収説が流れた。伊都ハイランドに興味を示したとされるのは、福岡県外の不動産会社A。22年の早い段階で、A社と伊都ハイランドの間で話が進んでいたようだが、銀行が融資に難色を示し買収計画は白紙になった、という内容のものだ。
伊都ハイランドは同年夏ごろ、ハイランドの住人や不動産所有者に対して、「価格の一部改定のお知らせ」を送付している。管理費や上水道維持費などの値上げを求めるもので、インフラ設備の経年劣化への対応など、より良い住環境の提供を目的とした設備投資の一環だった。しかし、先述の通り60名以上の住人や不動産所有者は、この突然の値上げ通知に反発している。
心身ともに豊かになれるという理想実現を
同社に取材を申し込んだが、期日までに回答を得ることはできなかった。
ハイランドが位置する志摩岐志はすばらしい景観を有しており、自然のなかで余暇やセカンドライフを過ごしたい人にとって、最適なロケーションといえる。伊都ハイランドが掲げる心身共に豊かになれる場所という理想を実現しやすい環境でもあり、だからこそ、その価値を自ら棄損するような真似は、双方にしてほしくない。管理費の支払いをめぐる是非は、裁判所の判断に委ねられた。
エメラルド観光開発から不動産やインフラ設備を買い取った時点で、伊都ハイランド、そして住人や不動産所有者が、以降の管理の在り方について協議し、双方が納得のいくかたちで管理委託契約を締結できていれば、このような事態は避けられたのではないだろうか。
【代 源太朗】
<COMPANY INFORMATION>
(株)伊都ハイランド
代 表:牛島 中
所在地:福岡県糸島市志摩岐志1513-4
設 立:2022年2月
資本金:1,000万円
※(株)ITO HIGHLANDから分割により設立(株)ITO HIGHLAND
代 表:牛島 中
所在地:福岡県糸島市志摩岐志1513-4
設 立:2007年10月
資本金:1,000万円
※(株)伊都ハイランドから商号変更関連記事
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