2024年11月22日( 金 )

韓国を「多国間協調」に誘導せよ〜日韓関係の今後の課題(後)

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毎日新聞元論説委員 元ソウル支局長
下川 正晴

 広島市で開かれた主要七カ国首脳会議(G7サミット)は、21世紀の世界史にとって特筆すべき国際会議になった。ロシアに侵略されたウクライナのゼレンスキー大統領は、劇的に広島入りして対面参加し、各国から強力な支援を取り付けた。インド、インドネシアなど「グローバルサウス」諸国との会談も有意義だった。韓国の尹錫悦大統領のサミット参加にも合格点が与えられる。長い間にわたって戦後日本外交の足かせになってきた韓国との関係正常化を踏まえ、今後の日韓関係を展望する。次期政権が再び左翼政権に逆戻りする危険性を念頭に置きながら、自由主義国家の一翼である韓国を多国間外交に誘導する方途を考えたい。

韓国は不安定な国家

日韓関係 イメージ このような俗悪なメディア環境のなかで、国内改革に取り組む尹政権の労苦には同情を禁じえない。韓国民は史実を歪曲した教科書で教育を受け、視野狭窄のメディアに翻弄される。日本を訪問して「歴史の真相」に気づく国民は、まだ少数派であるのが現状だ。

 「韓国のなかには2つの国家がある」。最近、このような評言が韓国内外で出始めた。正統的な「大韓民国」(保守国家)と、それとは異なる歴史観・国家観に基づく別の国家(左翼国家)があるという意味だ。

 「韓国観察者」としての私見によれば、前者・後者の支持者はそれぞれ3割ほどで、残り4割が5年に一度の大統領選挙の雌雄を決する中間派である。韓国は1948年の建国以来75年が経ったが、依然として国家理念(アイデンティティ)が確立されていない国家なのである。前回の大統領選挙では保守派が辛勝を収めたが、次回選挙では現在の大統領支持率から見て、再び左翼政権に逆戻りする可能性は決して低くない。

 さらに付言するなら、この2つの国家はともに世界最悪の出生率によって人口が急減しつつあり、国家崩壊の危機にある。

 韓国の2022年の合計特殊出生率は、2021年の0.81を下回る0.78(暫定値)であった。2015年に1.24を記録して以降、7年連続で過去最低を更新したことになる。これは、日本の1.30(2021年)やOECD平均1.59(2020年)を大きく下回る数値である。

 手元の資料によると、「漢江の奇跡」と呼ばれる高度成長を記録した1972年当時の合計特殊出生率は4.54であった。朴正熙大統領は建国以来、滑走路に停まったままだった「大韓民国」の操縦席に乗り、米国・日本から援助を得てこれを離陸(テイク・オフ)させた革命児である。韓国はその操縦士(大統領)が5年ごとの選挙で入れ替わり、異なる方向に機体を向けて右往左往する現状にある。

 大韓民国の成功の秘訣は、すでに述べたように米国や日本と協調し、朝鮮半島で初めての「海洋国家」として国家建設を行ったことにある。これは朝鮮の開化期に初めて「太平洋を発見」した金玉均ら改革派の近代的思想を踏襲するものである。

 要約していうと、19世紀から20世紀は「太平洋の時代」であった。そして21世紀は「インド太平洋の時代」である。

 世界的なコンサルタント会社「PwC」の推計によると、2016年のGDP(購買力平価ベース)は1位中国、2位米国、3位インド、4位日本、5位ドイツだが、2050年には1位中国、2位インド、3位米国、4位インドネシア、5位ブラジルへと変化し、日本は8位に転落する。一方、韓国は2016年の時点では13位だったが、2030年には14位、2050年には18位に急落すると見られている。

 この「世界史のトレンド」を理解できるかが、今後の各国の発展の帰趨を決するのだ。

グローバル中枢国家の苦悩

 尹錫悦政権のインド太平洋戦略は、自由と平和を追求する「グローバル中枢国家」として地域的役割をはたすという構想だ(昨年12月発表)。今回のG7広島サミット参加も、この構想に基づいてであった。

 しかし、韓国にとって地政学的な難問は、中国の存在である。最近までの韓国経済の好況は、中国経済の好景気と連動していた。しかし、コロナ禍を経て中国経済が低成長に転化した今ですら、韓国はどういう選択をすべきか、尹政権内部でも意見が一致していない。このジレンマが、米欧日から「韓国は中途半端である」とみなされているゆえんである。

 有り体に言って、韓国は世界的にみて「人気がある国家」ではない。とくにインド太平洋戦略の要である東南アジアで不人気なのは手痛い。韓国政府が今、Kポップスの流行をテコに国家イメージの改善を図るのも、そこに遠因がある。反対に、同地域で高い評価を受けるのが戦後日本の姿である。シンガポールのリー・クアンユー初代首相の自叙伝には、「私が韓国人を初めて見たのは、彼らが日本軍国主義の尖兵だった当時だ」という趣旨の記述がある。アジアの歴史は現代韓国人が考えるほど単純ではないのだ。

 紙数が尽きた。本稿では日韓関係改善の足を引っ張る(1)韓国メディアの害悪を指摘した。さらに、(2)韓国は不安定な国家であること、(3)国家アイデンティティが確立していないこと、(4)韓国発展のカギは「海洋」にあることを明記した。最後に(5)「韓国=グローバル中枢国家」の苦悩を理解して日本側も対応すべきである点を強調しつつ、ひとまずまとめとしたい。

(了)


<プロフィール>
下川 正晴
(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)に従事。著作に『忘却の引揚史―泉靖一と二日市保養所』(弦書房、2017)、『占領と引揚げの肖像BEPPU1945-1956』(弦書房、2020)など。

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