G7、気づいてみれば少数派 「黄昏クラブ」と化した広島サミット(前)
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日本ビジネスインテリジェンス協会より、共同通信で台北支局長、編集委員、論説委員などを歴任し、現在は客員論説委員を務める岡田充氏による、G7が世界秩序をリードする役割を終え、「金持ちクラブ」から「黄昏クラブ」と化した背景を分析した論考「G7、気づいてみれば少数派 「黄昏クラブ」と化した広島サミット」(「岡田充の海峡両岸論」に掲載)を提供していただいたので共有する。
「日本の歴史で最も重要なサミット」
岸田文雄首相が鳴り物入りで意気込んだ主要先進7カ国(G7)広島サミット(5月19~21日)が終わった。「歴史に残る」サミットになったとすれば、それは「核なき世界」を画期したからではない。G7が先進国の衰退によって世界秩序をリードする役割を終え、「金持ちクラブ」から「黄昏(たそがれ)クラブ」と化したのが際立ったためだ。「G7、気づいてみれば少数派」という現実を噛みしめねばならない。
新興・途上国に配慮
広島サミットのテーマは、岸田の選挙区、広島で開かれたことから(1)核廃絶、をはじめ(2)ウクライナ(3)台湾(4)経済安保―の4課題だった。岸田は今回サミット拡大会合に韓国、オーストラリアのほか、新興・途上国のインド、インドネシア、クック諸島、コモロ、ブラジル、ベトナム6カ国を招待した。6か国は、経済成長が著しく国際政治でも影響力を増す「グローバルサウス」(GS)に属する。
GS諸国はウクライナ・台湾問題で日米の主張には与しない。20日発表された首脳声明を読むと、岸田が呪文のように唱える「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」や民主、自由など「普遍的価値」は総じて影を潜めた。代わって「力による一方的な現状変更は許さず、自由で開かれた国際秩序を守る」という表現を繰り返し使い、ロシアと中国を間接的に非難したのが特徴といえる。
ウクライナ・台湾問題という西側にとっては最重要課題で、「新冷戦」を嫌うGSから反発を招かぬよう、官邸と外務省が絞った知恵だったのだろう。それだけ、国際秩序におけるG7の力と役割が後退し、新興・途上国に配慮せざるを得ない事情を浮き彫りにした。
欺瞞に満ちた「核廃絶」
初日の19日、岸田にとって最重要課題の核軍縮の共同文書「広島ビジョン」が発表された。それは(1)ロシアの核威嚇やいかなる使用も許されない(2)北朝鮮に核実験と弾道ミサイル発射の自制要求(3)中国を念頭に、透明性を欠く核戦力の増強は世界と地域の安定にとって懸念―とうたった。核政策でも「中ロ朝」3国を敵対視が鮮明だ。
かつてブッシュ(子)がイラン、イラク、北朝鮮の3国に「悪の枢軸」のレッテルを貼ったが、新冷戦を進めようとするバイデン政権にとって、「中ロ朝」こそ「新悪の枢軸」になったかのようだ。
岸田政権は、バイデンが進める「統合抑止戦略」に相乗りし、日本の大軍拡と「核の傘」をドッキングさせ、一方で核兵器廃絶を目指す核兵器禁止条約には反対し続け、ドイツのようにオブザーバー参加すら考慮しないありさま。JNN(TBS系列)が6月5日伝えた世論調査によると、サミットを契機に、世界で核軍縮の機運が高まったかを聞いたところ、「思う」は34%に対し、「思わない」は52%だった。
岸田は「理想をいかに現実に近づけるか」と弁解するが、「核廃絶を目指す」という主張がいかに欺瞞に満ちているかを端的に説明している。
対中国表現の変化
20日には英文で40頁の首脳声明が発表され、「地域情勢」の冒頭に中国問題が独立した項目として初めて扱われた。台湾問題では「台湾海峡の平和と安定の重要性」という表現を21年の英コーンウォール・サミット以来3年連続で盛り込んだ。
今回はそれに加え、台湾海峡の平和と安定を「国際社会の安全と繁栄に対し『必要不可欠』」と初めて形容し、日本が台湾問題に主体的に介入する姿勢を打ち出した。さらに「台湾に関し表明された『一つの中国政策』を含むG7メンバーの基本的な立場に変更はない。我々は、両岸問題の平和的解決を促す」とも述べた。前2回のサミットの共同コミュニケにはなかった表現だ。
台湾以外では、チベット、新疆ウイグル自治区、香港問題に言及し人権問題で懸念を表明。さらに22年に在中国日本大使館員が一時拘束された事件を念頭に、外交関係に関するウィーン条約及び領事関係に関するウィーン条約の順守を求めたのが目を引いた。さらに東シナ海と南シナ海での「力又は威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対」を盛り込んだ。
その一方、「中国と建設的かつ安定的な関係を構築する用意」をうたい、「我々の政策方針は、中国を害することを目的としておらず、中国の経済的進歩及び発展を妨げようともしていない」と、経済を中心に対中関与政策を打ち出したのも特徴。バイデンの反中国政策を嫌うフランス、ドイツや多くの途上国に配慮せざるを得なかったためだ。
生煮えの「デリスキング」
経済安保にも触れておこう。半導体や重要鉱物などを念頭に中国依存から脱却し、安定したサプライチェーン(供給網)構築をめざすテーマでは、「デカップリング(筆者註 切り離し)又は内向き志向にはならない」「我々は、経済的強靱性にはデリスキング(同上 リスク回避)及び多様化が必要」などと、温和な表現を選んだように見える。
「デリスキング」という用語は、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長が23年3月末、中国について講演した際のキーワードとされバイデンもそれ以来よく使ってきた。5月21日、バイデンが広島で記者会見した際、プロンプターに映し出された原稿には、「デカップリング」と「デリスキング」の2つの単語に下線が引かれ、「言い間違えないよう注意を促していた」という。
それだけ、まだこなれず「生煮え」用語なのだが、英フィナンシャルタイムズ」(FT)のチャイナデスク、ギデオン・ラックマンはデカップリングが「不可能かつ極端な考え方」として非難されるのに対し、「デリスキング」は「西側の企業には、安全を期すために一定のルールさえ守れば従来通り中国と貿易を続けてよいというメッセージとして伝わっている」と、その違いを表現する。
だが、FTの「新冷戦論者」でもあるラックマンですら、デリスキングの問題点として(1)企業と国の関心が相対立(2)中国依存を軽減する困難さと高いコスト(3)リスクの本質が依然として判然としない―を挙げている。
G7前には、マクロン仏大統領が、台湾有事で「米国に追随しない」と発言するなど、G7内部で中国をめぐる日米との不協和音が露呈。GS諸国の多くは中国の「一帯一路」によるインフラ構築で対中経済関係を深化させており、デカップリングは受け入れられないことに配慮したのが、デリスキングだった。
(つづく)
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