2024年11月22日( 金 )

『脊振の自然に魅せられて』「可憐に咲く希少植物 オニコナスビ」(後)

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 そこから10分、やっと目的地のオニコナスビが咲く地点へ届いた。背の低い蔓性のオニコナスビの花が咲いているのを目にした。

 手前の1本の樹木には、毎年6月、蔓性のハンショウヅルが花を咲かせる。今年は10m上の蔓まで、半鐘状の紫の花を100個ぐらい咲かせていた。咲き終わると花は髭と化す。キンポウゲ科の特徴である。髭がないかと目を凝らして探した。すると、6月に一番形の良い花を咲かせたハンショウヅルが髭となって、目の前の蔓に下がっていた。やっと会えたと、カメラとスマホで撮影する。

ハンショウヅル(半鐘蔓 キンポウゲ科)
ハンショウヅル(半鐘蔓 キンポウゲ科)
(1)6月に半鐘状の花をつける
ハンショウヅル(半鐘蔓 キンポウゲ科)
ハンショウヅル(半鐘蔓 キンポウゲ科)
(2)咲き終えると髭と化す

 一息ついて、オニコナスビの可憐な花に顔を近づけた。濁流にも流されず、よくぞ生き残ってくれたと、この小さな花を愛おしく感じた。

 オニコナスビは名前に「オニ」とつくように、中心部の赤色とそれを取り囲む燃えるような黄色の花弁が特徴的な、人差し指くらいの小さな可愛い花である。真夏の脊振に彩りを添える花だ。SNSのせいで今やすっかりこの花のありかは知られてしまい、一目見ようと大勢の登山者が押し寄せる。

 撮影に夢中になるあまり、花や蔓を登山靴でつい踏んでしまうこともある。登山靴は底が硬いのでひとたまりもない。踏まれた根や花はすっかり痛んでしまい、無残な姿になる時もある。

 筆者は長年、この自生地の周りに石積みをして保護してきた。たくさん花をつける年もあれば、少ない年もある。ここから50m上方にも咲く場所がある。行って確かめてみると、今年は咲いていなかった。周辺のヤブのなかにも咲いていなかった。自然界で生き延びるのは厳しいのである。

可憐に咲くオニコナスビ(鬼小茄子 サクラソウ科)希少植物
可憐に咲くオニコナスビ(鬼小茄子 サクラソウ科)希少植物

 一息ついていると、上方の峠方面から長靴を履いた女性らしき人が降りてきた。「女性らしき」と言ったのは、風貌は男性、胸の膨らみもないからである。声をかけると女性であった。佐賀方面からの道を利用して、唐津から来たと言う。筆者も時々、車で脊振山頂駐車場へ上がり、縦走路から矢筈峠を経て確認に来ることがある。峠から山道を10分下ればこのポイントへ着く。登山道を登らなくて済むので楽である。

 女性から途中の土砂くずれ情報も聞き出した。彼女はスマホでオニコナスビの花を丁寧に撮影していた。ヤマジオウ(シソ科、背は低く紫の花を咲かせる)が咲いているよと教えてあげた。この女性なら花を大事にしてくれると思ったからだ。

同時期に咲く ヤマジオウ(山地黄 シソ科)
同時期に咲く ヤマジオウ(山地黄 シソ科)

 名前を聞いてみた。地図アプリの「ヤマップ」のハンドルネームも教えてくれた。筆者のことを少し話すと、「ヤマップ名『山路遥』さんですよね?」と。ヤマップは創業10年。今やビギナー登山者のほとんどが、これのユーザーである。GPSを利用して登山地図に重ね、現在地や登山ルート、標高などがわかるすぐれものだ。福岡のベンチャー企業として成功している。筆者は最近は公開せず、記録用として重宝している。

 花を確認し、登山道を下ること1時間で登山口に戻ってきた。朝に登ってきた林道をテクテク歩いて下った。10分も歩くと、脊振の自然を愛する会が依頼を受けて1年ほど管理していた山小屋の前に来た。林道から覗くと、山小屋の持ち主の男性がいた。手を振ると、入っておいでと合図があった。

 虫除けの防虫ネットを取ると、筆者だとわかったようだ。別の知人と勘違いしていたようだが、「コーヒーを飲んでいかんですか」と誘ってくれた。携帯コンロに火をつけ、湯を沸かし、コーヒーをドリップしてくれる。古びた缶にはお菓子も入っていた。こうしてコーヒーとお菓子をご馳走になった。アンパン青カビ事件で空腹をおぼえていた筆者には、とても有難いことだった。

 山小屋の持ち主は Hといい、大学の5年後輩でもある。古びた山小屋は元の持ち主から譲り受けたものだ。彼と談笑するうちに、水の取り組み口が今回の豪雨で土砂が詰まった話になった。ようやく取り除いたところだとのこと。山小屋前の渓谷の石の渕に生えていたオニコナスビの蔓も、濁流で流されたらしい。車谷に行く時に崖をのぞいてみたが、それらしき蔓は無かった。やはり流されたのか。残念である。

 筆者にはリハビリの時間が迫っていた。お礼を言って、早々に車を止めたところまで戻る。記憶に残る1日であった。

(了)

脊振の自然を愛する会
代表 池田友行

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