2024年11月22日( 金 )

林業再生には徹底的な合理化策が必要

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味岡生コンクリートグループ
代表 味岡 和國 氏

味岡生コンクリートグループ 代表 味岡和國 氏

 林業の苦境がいわれるようになって久しいが、林業事業者──なかでも山林経営者の実状を詳しく知る機会は少ない。そこで、自らも熊本県内に山林をもち、森林組合の組合長も務める味岡生コンクリートグループ代表の味岡和國氏に話を聞いた。味岡氏は山林経営者が置かれる厳しい状況を紹介したうえで、林業の再生には徹底的な合理化を推進し、補助金頼みから脱却する必要がある旨の提言をしていた。

川下が知らない山林の状況

 味岡生コンクリートグループは、熊本県球磨郡を拠点に生コンクリート製造販売から建設、建機レンタル、エネルギー関連まで、幅広い分野の事業を手がけている。味岡氏はグループ経営の傍ら、私財を投じて山林を所有しつつ、多良木町森林組合の代表理事組合長も務めており、森林の整備を通じた洪水防止、土砂流出・崩壊の防止、CO2の吸収による地球温暖化防止に取り組んでいる。味岡氏はその経験から、「今のままの林業であれば、この先、決して良くなることはない」と語気を強める。

 その理由として、まず山林経営者たちが厳しい状況に置かれていることを挙げた。「かつて山主(林業経営者)は酒造家や大規模農家と並ぶ地域の名士、資産家だった。それが今では没落し、山主のなかには山林を手放す、生活保護を受ける、夜逃げをするといった人たちも散見される」。山林経営者が経済的に困窮したのは、第二次世界大戦の戦後補償のからみもあり、外国産材が大量に国内に流入。その品質や強度が高かったことから、国産材、地域材の使用が減り価格が低下、収入が減ったためだという。

 ただ、この10年ほどの間に、国は国産材活用を国策に掲げ、保全に向けた補助金制度を設けるなど、林業振興に力を入れるようになってきた。また、2020年に起こったウッドショックにより、国産材を含む木材価格はそれ以前よりは高い水準となるなど、林業をめぐる環境は改善の兆しが見られないわけではない。

 しかし味岡氏は、「それらは焼け石に水で、山主の経済状況はどんどん悪化している。また、山主から山林の管理を請け負い、伐採・植樹などを行う森林組合も収入が減り、存続が難しくなっている。これらは地域の疲弊が深刻な状況にあることを表しており、そのことが川下の事業者や市民の耳に届いていないことが何よりも問題だ」と話している。

外国資本が山林を購入

造林中の山の様子(画像=多良木町森林組合)
造林中の山の様子
(画像=多良木町森林組合)

    地域の経営者が手放す、あるいは手放した山林の行方は、どうなっているのだろうか──。
 味岡氏は、旧財閥系の大手資本が今、積極的に購入しているとした一方で、中国を中心とする外国資本が購入する動きも目立つと指摘している。「山林は保水をし、水害発生を防止するうえで重要な役割をはたしている。外国資本は水源の確保といった目的で購入しており、これには国土保全を危うくする可能性が否定できない。外国人が何の規制もなく土地を所有、登記ができることが原因だが、これを野放しにしているのは国や自治体の政治家の政治力が低下している証拠だ」と手厳しく糾弾する。

 ところで、味岡氏は多良木町森林組合の組合長を務めているが、今、こうした状況を変えるための仕掛け、森林組合の合併に取り組んでいる。同組合と、熊本県内の2つの森林組合の合併に向け動いているのだが、その狙いについて味岡氏は、「それぞれがもつインフラ、たとえば製材所などを集約化することで、収益体制は大きく改善できる。そうすれば外国産材に対する競争力も生まれ、補助金に依存しない自立した林業を実現できる」と述べている。

日本一の森林組合が誕生へ

森林組合の業務の様子(画像=多良木町森林組合)
森林組合の業務の様子
(画像=多良木町森林組合)

    実現すれば、日本一の山林面積を誇る森林組合が誕生することになる。組合の合併は、「私が多良木町森林組合の組合長に就任する際、常務理事の給与を支払えないくらい状況が悪化していた。より強い経営発想で徹底的に経営を改善しなければ、こうした状況を改善することができない」と考えてのことだ。林業振興はこれまで、国や自治体、さらには政治・行政関係者がリードしてきたが、地域の実情や事業運営に長けた人物や民間法人が主導する、これまでにない徹底した経営手法が求められるということだ。

 林業関係者に話を聞く機会があるが、共通するのが、補助金を含む行政頼みの傾向が強いこと。それは山林が国土保全を担うこと、林業はあらゆる業種のなかで最も就業者確保が困難な状況にあるといった事情もあるのだが、彼らの発言には補助金頼みを良しとする雰囲気があるのもたしかだ。実業家の味岡氏が提言し、取り組もうとしている合理化策は、既存の在り方の恩恵を受けている人々にとっては、受け入れがたいものかもしれない。だが、待ったなしの状況にある林業復活を実現するためには、必要なことではないだろうか。

【田中 直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:味岡 和國
所在地:熊本県球磨郡あさぎり町免田西3278
設 立:1991年2月(味岡(株))
資本金:2,000万円(味岡(株))
TEL:0966-45-0100 
URL:http://www.ajioka-namakon.co.jp/


<プロフィール>
味岡 和國
(あじおか・かずくに)
 1947年8月30日生まれ。1965年4月味岡建設(株)入社。89年9月に味岡リース(株)、91年2月に味岡(株)を設立、代表取締役に就任。その間、味岡生コンクリート(株)を始めとする味岡生コンクリートグループを形成し、代表として率いる。趣味は狩猟。

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