2024年11月21日( 木 )

【由布市問題(1)】老舗温泉旅館玉の湯と由布市行政による住民いじめ(1)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 全国に知られる温泉地・由布院。同地を代表する老舗高級旅館「玉の湯」と由布市役所が、地元住民の意向を無視して、長年、住民所有とされてきた水路に排水を流すための工事計画を進めている。住民側は、近年多発する豪雨で床下浸水することもあるなどと懸念し、市民団体を結成し反対活動を進めている。話し合いを行っているが、玉の湯と行政の態度は改まらず工事中止の仮処分も検討している。

苦悩する住民の声

「こんな時代になるとは思わなかった」

 このように住民の1人は嘆いた。9月14日午後、取材班は大分県由布市に赴いた。先月、老舗旅館「玉の湯」が行政と一緒になって住民の意向を無視して、長年、住民が所有、管理してきた水路に、旅館が運営する施設・サービスアパートメントから出る排水を流そうとしているとの情報が寄せられた。

 そればかりではなく、住民が、玉の湯が進めている施設ができることにより、市道が狭くなることに関して市議会議員に嘆願書を市に出したが、玉の湯側に配慮したとみられるその市議会議員は、「提出する」と預かったまま握りつぶしているという。

 住民の方々から状況を聞いたが、「苦悩する日々が続いている」との訴えは胸に迫るものだった。

 問題となっているのは観光名所である由布院の中心地域にあるが、高齢世帯が多いエリアでもある。このため、地元の名士である老舗旅館や工事を行う建設業者などとやり取りを行うことに、強いストレスを感じている住民もいる。

 玉の湯と住民との間にどのような経緯があったのかを説明する前に、まず、玉の湯の歴史と現況を確認したい。
 「玉の湯」は1953年に禅寺の保養所として開設。62年に合資会社「玉の湯旅館」が設立され、82年、現在の(株)玉の湯となった。玉の湯は、約3千坪の雑木林のなかに建物があり、夏場でも清涼感を感じられるように配慮されたつくりとなっている。

由布院を観光名所にした立役者

 由布院温泉は、現在、外国人観光客を含めた多くの観光客が訪れる、全国でも屈指の人気温泉地だが、同温泉を成長させた立役者が3人いる。1人は、亀の井別荘の中谷健太郎氏、山のホテル夢想園の志手康二氏、そして玉の湯の溝口薫平氏である。

 現在、溝口氏は玉の湯の代表取締役会長を務めるほか、湯布院商工会長、(公財)人材育成ゆふいん財団理事長などを歴任している。2002年から観光庁が日本の地域観光振興を目的に、特色のある観光地づくりに貢献した人を「観光カリスマ」として選定しているが、溝口氏は第1回の観光カリスマに選ばれており、観光庁のホームページにも掲載されている。

 由布院の見どころの1つとなった「辻馬車」「湯布院映画祭」「ゆふいん音楽祭」を始めたのも、溝口氏をはじめとする3人で、71年に溝口氏と中谷氏はヨーロッパを視察し、各地にある観光地や温泉保養地をモデルに由布院のまちづくりを進めている。

 一方で、筋の通った活動も展開していた。1970年7月に、由布院でのゴルフ場建設計画が出るや『由布院の自然を守る会』を結成して反対運動を行い、ゴルフ場建設を阻止している。現在も、由布院に農村らしい穏やかな風景が残るのは、溝口氏の功績といってよい。

 問題は、地域における実力者になった溝口氏が経営する玉の湯に物申すことが難しくなったことである。たとえば、県外の旅館・ホテルが進出する際には、玉の湯を中心とした旅館組合の意向を無視できないといわれる。

 現在、玉の湯の社長は、溝口氏の長女である桑野和泉氏が務めている。大学卒業後、東京都内のホテルに勤務後、結婚し、夫の転勤にともない再度上京したが、92年に湯布院に戻り、95年の専務就任を経て、03年に3代目の社長に就任した。07年から由布院温泉観光協会会長を務め、地元観光業界はもちろんのこと、NHK経営委員や大分大学経営協議会委員、14年6月には九州旅客鉄道(JR九州)社外取締役にも就任しており、大分でも名だたる女性経営者として各方面に請われて役職を務めている。

 そうした桑野氏が22年11月に打ち出したのが、宿泊施設と医療施設の複合施設「(仮称)玉の湯サービスアパートメント」の建設である。長期滞在に対応した施設であり、コンセプトは、日常生活のように「暮らす」感覚で旅をし、体も心もリフレッシュする「滞在型保養温泉地」だという。

 この施設から毎日排出される排水をどのように処理するのかをめぐって、玉の湯は行政と結託するかたちで、長年、近隣住民が所有するとされてきた水路に流すことを計画したのが、今回問題となっていることだ。住民サイドは、大雨などで大量の流水が流れ込み、付近一帯が水没する危険性もあるとみている。

 そもそも、由布市は水路を住民所有としていたが、サービスアパートメントの建設が進むに伴い突然、「水路は市道の一部であり市の所有物。このため、サービスアパートメントからの排水を流す工事を行う」旨を通告してきた。

 住民サイドはサービスアパートメント建設により、市道が狭くなるといった状況にも直面しているという。上記のような経緯に加え、市議会議員による嘆願書の握り潰しとも見える行いに触れれば当然、住民サイドは玉の湯と行政の間に何らかの忖度や癒着があると考えるのが自然だ。

 さらに、行政側は不可解なことを記者らに回答してきた。

問題となっている施設(右)と市道、水路
問題となっている施設(右)と市道、水路

(つづく)

【特別取材班】

(2)

関連キーワード

関連記事