2024年07月16日( 火 )

水素利用において注目が高まっている「アンモニア」(前)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉明鎬 氏

脱炭素社会のカギとなる水素

 産業革命以降、世界の気温は平均1℃以上上昇し、その深刻な影響が各地で報告されている。今後、気温上昇の幅を1.5℃以下に抑えるべく、世界的に温室効果ガスの排出削減が求められている。そのためCO2排出が多い火力発電の利用は控えられる傾向にある。現在の日本におけるエネルギー構成は、77%を火力発電が賄っている。火力発電の代わりに原子力・太陽光・風力などが検討されるなか、次世代のクリーンエネルギーの1つとして「水素」と「アンモニア」が注目され、実証事業も開始されている。

 水素は、燃焼時に炭素が関与せず、地球温暖化防止に貢献するクリーンなエネルギーであり、石炭火力にかわる新たな燃料として期待されている。大気のなかに多く含まれている水素は、将来のエネルギーとして以前から注目が集まっていた。ところが、水素は化合物として存在していて、水素だけを取り出すことが大変であった。純粋な水素を得るためには、天然液化ガスを改質するか、水を電気分解することで得られるが、2つの方法ともに技術的にも、経済的にも課題があった。天然液化ガスを改質する場合、主成分であるメタンを高温の水蒸気と反応させ、水素を分離することになるが、その過程において多量の二酸化炭素が発生する。水を電気分解する場合にも、化石燃料で発電する電気が使われることになるので、経済性がなくなる。その他に製鉄所などで副次的に水素が生成されるが、量的に限界がある。

水素のキャリアとして有望視される「アンモニア」

アンモニア 分子 イメージ    世界各国では水素経済の構築に向けて動き出している。水素は二酸化炭素を発生させないクリーンエネルギーとして、発電だけでなく、水素自動車、燃料電池など、その用途も幅広い。しかし、水素は生産だけでなく、貯蔵や運搬にも莫大なコストがかかり、それが普及のネックとなっている。

 そのような状況下で、水素のキャリアとして注目されているのが「アンモニア」である。「アンモニア」は強い刺激臭をもつ、常温では無色透明の気体で、化学式は「NH3」で、水素(H)と窒素(N)で構成された物質である。私たちが日常生活のなかでアンモニアに接する機会があるのは、薬局などに置いてある「アンモニア水」であろう。虫刺されのかゆみ止めや掃除などの用途で使われるものだ。ところが、「アンモニア」(NH3)は世界で最も多量に使用されている化学物質の1つでもある。主な用途は肥料で、世界全体で約80%のアンモニアが肥料として消費されている。世界の人口が増加し続けるなか、農業用の肥料としてのアンモニアの重要性は、今後も高まることは間違いないだろう。

 ところで、次世代エネルギーとして注目されている水素は燃焼時にCO₂を発生しないものの、可燃性で爆発の危険性があり、体積が大きいために一度に運べる量も少ない。水素はそのままでは体積が大きいため、液化して輸送することになるが、水素を液化するためには、水素をマイナス253度に冷却する必要がある。それに運搬中に気化しやすく、取り扱いが難しい。今後水素もアンモニアも液化して輸送することになると思うが、アンモニアは液化する温度がマイナス33度である反面、水素はマイナス253度となる。水素の生産コストよりも多くのコストが液化で発生する。貯蔵密度も水素よりアンモニアが高く、液状アンモニアは液状水素より、同じ体積であるなら1.5倍多くの水素を貯蔵することができるという。アンモニアは1年以上貯蔵することも可能だ。

 そこで、水素を輸送・貯蔵する際のキャリアとして、アンモニアが期待されている。アンモニアはコンパクトで運びやすいため、水素を窒素と反応させてアンモニアとして輸送・貯蔵し、必要に応じて水素を取り出して利用すればよい。また、アンモニアはすでにさまざまな用途で利用されており、安全に運搬する技術が確立されている。すなわち既存インフラを活用できるということだ。このようにアンモニアが水素の貯蔵と運搬の課題を解決する切り札として登場し、水素社会の早期実現を可能にするかもしれない。アンモニアは、貯蔵や運搬が水素と比較して簡単で、コストも抑えられるので、アンモニアに注目が集まっている。

(つづく)

(後)

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