イトーヨーカドー 改革とその終焉
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セブン&アイHDが傘下のGMS、イトーヨーカドーなどのスーパー事業に外部資本を入れて再建することで同社の構造改革を仕上げると発表した(4月10日発表)。食品関連については首都圏を中心に年間売上高5,700億円規模の売上がありながら、利益が出ない状況にさらされているからだ。対策はグループ約1,000店舗の閉鎖を含むという大掛かりなものだ。
徹底した現場管理も陳腐化を防げず
同社が小売業界に伝説として残る構造改革を標榜し、全店舗の店長を毎週本部に集めて当時としては異例の徹底した現場管理を始めたのは1983年、それから40年が経った。それでも最終的には現場の陳腐化を防げなかったということだ。
セブン&アイグループの祖業は、衣料品小売がスタートの大型スーパーだ。その経営は小売業の手本といわれ、単品管理や業革といったその経営スローガンが常に話題になるほど、我が国小売業をリードする優良企業に成長した。
経営は堅実を基本とし、その徹底ぶりは髪型や服装にまでおよび、上着を脱いだらそれを肩にかけるなどもってのほかというルールなど「金太郎あめ」と揶揄されるほどの徹底ぶりだった。ダイエーやジャスコなどの大手スーパーが日常的に自己都合返品をするのに対し、イトーヨーカドーには不当返品がないともいわれた。
一方、取引に関しては紳士的だが徹底した厳しさで、当時、取引先は「ダイエーと付き合うと殺される。ヨーカドーは生かさず殺さず搾り取る」と評した。そんな当時の業界雀の評判は同社とほかの大手小売の違いをよく表している。
カリスマを越えられなかった
そんなセブン&アイHDが、イトーヨーカドーなどのリストラ費用2,460億円を特別損失として計上したのが原因で前期比20%の減益を発表した。25年度の決算は30%の純利益増を見込んではいるものの、売上の伸びが期待できないなか、ヨーカドーやグループ食品スーパーヨークベニマルなどを取り巻く厳しい環境は今後も続く。
イトーヨーカドーの新規株式公開などで外部企業との協業も進めてスーパーの改善を図るとはいうものの、セブンイレブン頼みの基本構造が大きく変わるわけではない。スーパー部門の改善が計画通りに進まなければ、アクティビストからの部門売却の声がますます強くなるはずだ。
かつて長期にわたってイトーヨーカドーの現場指揮の中心にいたのが鈴木敏文・元イトーヨーカドー最高経営責任者だ。ヨーカドーグループに周囲の大反対を押し切ってセブンイレブンを導入し、独特、独自の視点で成長させ、米国のセブン本社まで買収した経営力は、その指向性と先見性から社の内外でカリスマ的評価を得た。
業革を主導し、イトーヨーカドーを優良小売業に育て上げて後進に道を譲った鈴木氏だが、長い間低迷のトンネルから抜け出せないスーパー部門不振の原因は長期にわたって同社の社長、会長を務めた鈴木敏文氏にあるのかもしれない。もちろん、祖業に強くこだわり、鈴木氏にもそれを求めた伊藤氏にもその責はある。
1981年、上場以来初の中間減益予想に際して「荒天に備えよ」と海軍用語を使って早い段階で危機意識をもったのは、当時社長だった伊藤雅俊氏だ。その意を受けて、徹底的な組織コントロールを行ったのが鈴木氏だった。当時常務の鈴木敏文氏が責任者となり、小売市場にその名が残る「業革」を始めた。
ほかの小売に先駆けてPOS(販売時点情報管理/ポス)を導入したうえで、仮説と検証の繰り返しとバイヤー、スーパーバイザー、店舗作業の徹底業務分離など、極めて厳しい現場管理を実行した。
単品管理が終わるまで帰れない事例や、会議中に涙する店長。本部に通じる横断歩道前で、会議に行くか引き返して退社するかと真剣に悩んだ役員さえいたというくらい徹底した厳しさがその特徴だ。
業革責任者の鈴木敏文氏を常に信頼し、重用したのが創業者の伊藤雅俊氏だ。その結果、劇的な変化と高収益体質をイトーヨーカドーにもたらした。しかし、そんなヨーカドーも時代にはうまく添い寝できなかった。
ゾンビは生き返らない
高度経済成長が終わった1975年ころから時代は単品大量消費から、複数、選別消費に変化した。それを狙って大規模店舗法で思うような出店ができなくなった大手GMSに対して、彼らの単部門を切り取った紳士服や婦人服、靴履物の専門店がロードサイドという低家賃と車社会に対応した出店を始めたのだ。
加えて、ホームセンターなどの大型業態店も加わっての新たな厳しい競争環境が生まれた。いわば空気が変わったのだ。市証、従来型業態が前提での改革、改善ではカバーできない事態にイトーヨーカドーは気が付かなかった。ダイエーや西友といった同業が不振に沈み、やがて消えていくなかでも、イトーヨーカドーは50年の長きにわたって現業態での改善が可能と断じ、祖業にこだわった。その結果が減益とスーパー事業や百貨店事業の切り離しを余儀なくされるという現実だ。
従来業態を是とした改革が続いた理由は鈴木氏の強い信念にある。過去の劇的な業務改善とセブンイレブンの成功から来る自信が、成功するまでやるというその哲学的手法でイトーヨーカドーの経営改善も可能だと主張した。彼のカリスマがかった強権的な説得力と性格、かつての実績を知る経営幹部はそれに同調するしかなかった。かくして、蹉跌が重なったということだ。
イトーヨーカドーが業態寿命を永らえたのは、他社に勝るポスの徹底利用、売れ筋より死に筋重視の店舗現場運営で陳腐化の足を遅くしたからだ。
加えてその店舗が消費潤沢な首都圏に集中していたことがある。他の大手は全国各地方に積極出店し、小売以外の事業に中途半端な取り組みをして窮地を招いたのが、ヨーカドーはそれをしなかった。しかし、市場変化はその足を止めず既存業態を脅かし続けるのが近代小売業の歴史だ。アマゾンや楽天などのオンライン、イオンによる英・宅配リテールのオカドとの提携などを例にとるまでもなく、それはとどまることを知らない。
かつて、「セブン&アイ」というセブンが先に来る企業名の変更には創業家との確執もささやかれたこともあるが、遠くない将来、「&アイ」も消え、セブンしか残らない小売業になる日を予感させる先のリストラ発表でもある。
【神戸 彲】
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