市場縮小の罠を超える(4)故郷には誰も帰ってこない
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美祢(仮称)は故郷で、400坪の敷地に建つ8LDKの戸建不動産(築年数50年)を購入した。彼が現役だった若いころは、海外を飛び回ってビジネス人生を全うした。そして彼は、退職後の人生について、「故郷に戻り地域の活性化に貢献しよう。古民家を改造してインバウンドや日本人の旅行者に、喜びの宿泊サービスを提供しよう」と考えて故郷に戻ってきた。
ところが彼は故郷で驚きの現実に直面した。人口減の現実、地域社会は崩壊寸前の集落だと知って驚いた。「同期の連中はみんな故郷を捨てて都会へ移住していった。故郷に戻って何か役に立とうという気持ちを微塵ももっていない。ふざけた奴らである」と怒りをあらわにする。
彼は怒り心頭に発していたが、その一方で、驚きの声もあげた。今回、購入した不動産の価格は僅か350万円。さらに、役場に報告に行くと「補助金が出ます」と告げられたという。実際、200万円支給されるそうな。つまり、自己資金150万円で歴史ある物件を購入できたことになる。
美祢は、「この不動産の安さには驚愕する」としながらも、一方では複雑な心境を吐露する。この物件は実は彼の同級生が所有していたものなのだ。その友人は別途、自宅を所有している。そして子どもが3人いる。友人は「いずれ、子どもの1人くらいは故郷へ戻ってくるだろう」と判断して、この別宅の手入れに余念が無かった。ところが誰も帰郷する者がいない。ということで、友人はやむを得ず別宅を売ることを決断したのだった。そのような経緯があって美祢にこの古民家が転がりこんできたのである。
美祢は腹を括った。「古民家を改造して民泊ができる環境を整備する。1人でも宿泊客を多く呼んで、我が故郷の活性化に貢献したい」と老後の使命感に燃えている。
【青木義彦】
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