2024年11月22日( 金 )

傲慢経営者列伝(3):三菱グループ「御三家」の面々(3)

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 「魚は頭から腐る」という諺がある。組織において問題や不正は上層部から起こり、それが全体に悪影響をおよぼすことを指す。「三菱最強伝説」の崩壊は、三菱グループの頂点に君臨する御三家(三菱重工業、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱商事)の長兄に当たる三菱重工から始まった。

「三菱グループの天皇」の暴言

丸の内二重橋ビル イメージ    この親にしてこの子あり。妙に納得できる記事を目にした。『週刊新潮』(2016年5月5日・12日ゴールデンウィーク特大号)の『三菱自動車「相川哲郎」社長の実父「三菱グループの天皇」かく語りき』に掲載された三菱重工相談役、相川賢太郎氏(故人)のインタビュー記事だ。「燃費データ不正操作問題」に揺れる三菱自動車の相川哲郎社長の実父である。

 相川賢太郎氏は三菱重工の9代社長を1989年から3期6年、会長を2期4年務め、三菱グループ全体に睨みをきかせているという。第2金曜日には三菱グループ主要29社の社長や会長らが集まる「金曜会」というものがあり、相川氏は、その世話人代表を96年から99年まで務めた。世が世であれば、三菱財閥の総帥である。

 三菱御三家である三菱重工、三菱UFJ銀行、三菱商事の3社が金曜会を仕切るが、三菱財閥の家長の役割を担っているのが三菱重工だ。三菱重工のドンである相川賢太郎氏は「三菱グループの天皇」の異名で呼ばれる。その賢太郎氏はインタビューで、こう語っている。

 〈あれ(今回の不正問題=筆者注)はコマーシャル(カタログなどに記された公表燃費性能=筆者注)だから。効くか効かないのかわからないけれど、多少効けばいいというような気持ちが薬屋にあるのと同じでね。自動車も“まあ(リッター)30キロくらい走れば良いんじゃなかろうか”という軽い気持ちで出したんじゃないか。(中略)買うほうもね、あんなもの(公表燃費)を頼りに買っているじゃないわけ〉

 燃費データ不正は軽い気持ちでやったことだ、と言い放ったのだ。「三菱の奢り」と消費者の反発を招くとは考えていない。三菱グループ首脳たちの苦虫をかみつぶした顔が目に浮かぶが、「やっぱり」と納得できた。大三菱は、消費者なんか眼中にないからだ。

三菱電機の不正を生む
「工場あって会社なし」の企業風土

 「三菱グループの天皇」相川賢太郎氏の「燃費なんか誰も気にしていない」という発言は、「バイ三菱」でしか通用しない内向きの理屈だ。三菱自動車は大衆車に進出するまで一般ユーザー向けの商売をやったことがなかった。ユーザー軽視は三菱自動車のDNAともいえるものだ。結局、三菱自動車は、カルロス・ゴーン氏(当時)が率いる日産自動車に引き取ってもらった。「腐ったリンゴ」を三菱グループから取り除いたわけだ。

 だが、溶解は三菱重工=三菱自動車だけではない。三菱自動車と同じように三菱重工から分離・独立した三菱電機でも、悪質なコンプライアンス違反問題が発覚している。新潮社の『フォーサイト』(2016年5月28日付)はこう報じている。

 〈同社は2012年12月、防衛省と宇宙航空開発機構(JAXA)など4機関に対し原価の基になる工数を40年近くごまかし、374億円の「過大請求」していたと発表。国民の税金をかすめ取るという悪質な行為だったのに、経営陣は誰1人辞任せず、当時社長(現会長)の山西健一郎らの減給処分で頬被りした。身内に甘いのはこのグループの習性なのかもしれない〉

 不正はその後も間欠泉さながらに次から次と噴き出してくる。三菱電機の品質不正問題を受け、調査委員会は2021年10月1日に報告書を公表した。従業員が会社全体よりも「工場や製作所の利益を優先する体質。〈工場あって、会社なし〉という企業風土が真因だ」と結論付けた。緩い統治体制はスリーダイヤの宿痾である。

(つづく)

【森村和男】

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