ガーデニングで治水対策 「雨にわ」活動が国交大臣賞(前)

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「おでかけひろばFUKU*fuku」に設置した「雨にわ」。
樋からかめつぼに雨水が一時貯留。
ここからオーバーフローした雨が「雨にわ」へ浸透する仕組み。
(提供:世田谷トラストまちづくり)

 1月29日~31日にかけて「グリーンインフラ産業展2025」が東京ビッグサイトで開催された。初日には、第5回グリーンインフラ大賞の国土交通大臣賞と特別優秀賞がそれぞれ表彰され、国土交通大臣賞には、NPO法人雨水まちづくりサポート、(一財)世田谷トラストまちづくりによる「武蔵野台地における『雨にわ』によるNbSの普及・実証事業」が選ばれた。「雨にわ」とは、自宅のちょっとしたスペースで雨水が浸透しやすい土壌を整えて植物を植える庭のこと。雨樋から流れ込む水を貯める雨水タンクを併設しており、災害時の生活用水として利用できることも重要なポイントだ。一般市民が「雨にわ」のプロジェクトに参加することで、楽しみながら自然の力を生かした治水につなげる活動が評価された。

1坪の空間で個人でも

 東京都の中西部に位置する武蔵野市と世田谷区は、ともに水はけが良く保水力に優れた関東ローム層に覆われた武蔵野台地にあり、杉並区と隣接している。杉並区では、集中豪雨で下水に集まった大量の雨水による神田川や善福寺川の氾濫でたびたび浸水被害が起きている。その上流域となる武蔵野市は住宅地開発が進んでいるが、比較的緑地や農地などが残されていることから「雨にわ」によるNbSを実証する場として適していると判断した。

 NbS(Nature-based Solutions)とは、国際的な定義のある比較的新しい概念で「自然を基盤とした解決策」と訳されている。日本ではグリーンインフラという言葉で語られることも多い。

 地面に水が浸透しない舗装された都市の住宅地では、ゲリラ豪雨による雨水が一気に下水や川に流れ込み、都市型の洪水を引き起こす原因になる。個人宅のちょっとした(1坪程度)スペースを使った「雨にわ」を広げることで、雨水をタンクで一時的に貯めてゆっくり地中に浸み込ませ、洪水の発生を防ぐ効果を期待している。武蔵野市と世田谷区は、土地利用の約7割を宅地が占めている。「雨にわ」の特徴は、個人でも比較的簡単につくれる点だ。ホームセンターで購入できる材料を使い、ガーデニングの延長線上で好きな植物を植えることで、楽しみながら「雨にわ」を維持できる。また、小さな庭にさまざまな植物を植えることで、多様な生き物のすみかにもなる。

 国交大臣賞を受賞したプロジェクトは、「雨にわ」を通じて流域治水への貢献や雨水活用への関心を高めること、グリーンインフラの視点での多様性を評価することを目的として、2022年から実施している。具体的な活動としては、世田谷区の「おでかけひろばFUKU*fuku」(世田谷区喜多見9丁目)と武蔵野市の「むさしのエコreゾート」(武蔵野市緑町3丁目)において、「雨にわ」の新設やモニタリング、浸透効果の定量的な計測と分析、「雨にわ」の普及・啓発のための情報発信や、幅広い年齢層の市民を対象にしたワークショップの開催などとなっている。

NPO法人雨水まちづくりサポート 理事の笹川みちる氏(提供:雨水まちづくりサポート)
NPO法人雨水まちづくりサポート
理事の笹川みちる氏
(提供:雨水まちづくりサポート)

    雨水まちづくりサポート(以下、雨まち)の笹川みちる氏は、今回のプロジェクトについて「小規模な個人の家でも挑戦できるような『雨にわ』をつくって、そのノウハウを伝えたり、効果を検証しようと立ち上げ、米国のコカコーラ財団から助成を受けることができました」とスタートの経緯を話した。

住民主体で治水対策

 プロジェクトが始動する前から、雨まちは「雨水の活用を技術的な部分や考え方を含めて世の中に普及していき、それを担う人材を育てる活動をメイン」(笹川氏)に取り組んできた。「雨にわ」は、住宅地が多く民間の取り組みが広がることが期待され、雨水の循環の効果が得られることから、武蔵野市と世田谷区を活動の場にし、以前から交流があった世田谷トラストまちづくり(以下、トラまち)とともにプロジェクトを進めていくことにしたという。武蔵野市では市役所と連携しながら活動した。

約1坪の敷地に30cmの穴を掘る様子(提供:世田谷トラストまちづくり)
約1坪の敷地に30cmの穴を掘る様子
(提供:世田谷トラストまちづくり)

 トラまちは、世田谷区の都市整備領域での中間支援組織という立場であり、市民主体のまちづくりを応援し地域の課題解決やより良い暮らしづくりにつなげるというミッションを掲げて活動。その一環として、個人宅や庭を地域に開くことに力を入れており、20年から「雨にわ」の取り組みを行ってきた。

 世田谷トラストまちづくり トラストみどり課主任・角屋ゆず氏は、「以前に雨水まちづくりサポートの『雨水塾』という雨水の技術者育成講座に参加して、そこで笹川さんなどとのつながりができ、個人宅でできる『雨にわ』づくりを普及させていきました」と両団体のつながりを説明した。今回のプロジェクトを始めるにあたり、雨まちからの相談を受けて、トラまちは世田谷区内において、個人宅でできる場所のコーディネートや住民参加型のワークショップのノウハウの提供や植物の選定などを行った。

(つづく)


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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