海峡都市・下関、2つの市街地再編へ(後)

ウォーターフロントでは
5ゾーンを段階的に再整備

 一方で、下関市街地のもう1つの“核”である唐戸エリアでは、冒頭で紹介した星野リゾートの「リゾナーレ下関」開業など、先行して再整備が本格化している。

 唐戸エリアの臨海部に位置する約10haの埋立地「あるかぽーと(※)」地区では、未利用地の活用をめぐって過去に数度の計画頓挫を経験。18年11月に改めての事業者公募が行われ、19年3月に星野リゾートが優先交渉権者に決定し、同年4月に市と星野リゾートとの間で基本協定が締結された。なお、この時点では、星野リゾートのシティホテルブランド「OMO(おも)」を冠した「星野リゾート OMO 下関(仮称)」としての開発が発表されていたが、21年10月には同社のより高価格帯のリゾートホテルブランド「リゾナーレ」に“格上げ”する方針を打ち出した。これが冒頭で紹介した「リゾナーレ下関」だ。

※あるかぽーと:唐戸エリアの臨海部約10haの埋立地の愛称。名称の由来はアルカディア(理想郷)とポート(港)を組み合わせたもので、同地における住所表記にもなっている。

 一方で、下関市では22年3月に、あるかぽーと・唐戸エリアを含む海峡エリアの目指すべき将来像やまちづくりの方向性を示し、「市民」「事業者」「行政」などがそれらを共有すべき羅針盤として「下関海峡エリアビジョン」を策定。 同年4月には、下関市があるかぽーと地区の主要な事業主体である星野リゾートとの間で「地域活性化に関する連携協定書」を締結し、同年5月に星野リゾートに対し「あるかぽーと・唐戸エリアマスタープラン」の策定業務を委託。そして23年2月、「あるかぽーと・唐戸エリアマスタープラン」が策定・公表された。

「あるかぽーと・唐戸エリアマスタープラン」ゾーニング
「あるかぽーと・唐戸エリアマスタープラン」ゾーニング

 同マスタープランは、唐戸市場周辺から岬之町までの臨海部約20haを対象エリアとし、同エリアにおける目指すべき方向性として「日本を代表するウォーターフロントシティ」となることを掲げた。また、開発コンセプトを「海峡を遊びこなす、朝から夜までめぐって楽しい、現代日本の港まち」と設定し、その戦略として①「海峡を遊びこなす」、②「朝から夜までめぐって楽しめる」、③「港まちらしさにフォーカスする」を提示。エリア内を市場エリア「水産漁業レクリエーションゾーン」、唐戸エリア「唐戸ゲートウェイハーバーゾーン」、あるかぽーとエリア「マリンパークゾーン」、東港エリア「アクティビティハーバーゾーン」、岬之町エリア「クリエイティブポートゾーン」の5つにゾーニングし、それぞれの個性や特色に沿った各ゾーンの導入機能と実現イメージを設定。また、エリアを東西につなぐグリーンベルトで自動車や中距離モビリティを受け止め、地域の交通混雑を解消しつつ、エリアの回遊性を高めていく方針となっている。

 同マスタープランでは、エリアにおける最大の観光資源である関門海峡を眺めるだけでなく、イベントやアクティビティなどの場として多様な手段で遊びこなし、早朝の市場の活気や、海峡の夜景など、場所や時間により移り変わる魅力でエリアを回遊する楽しみを創出。また、釣りやクルージングといった体験など、下関・関門の港町らしい景観・文化を楽しみつくすことができるエリアを目指していくことで、現在の課題となっている同エリアにおける滞在時間の延長や観光消費額の拡大につなげていきたい考えだ。ロードマップでは、第1工区として「マリンパークゾーン」「水産漁業レクリエーションゾーン」「唐戸ゲートウェイハーバーゾーン」の3つのゾーンを、第2工区として「アクティビティハーバーゾーン」、第3工区として「クリエイティブポートゾーン」と段階的整備を進めていく計画だ。

あるかぽーと・唐戸エリアの段階的整備が進む
あるかぽーと・唐戸エリアの段階的整備が進む

 現在は第1工区の事業推進期間にあたり、一連の動きのなかで「リゾナーレ下関」が開業(25年12月)したほか、海響館もリニューアルオープン(25年8月)。また、25年7月14日から26年1月16日の期間でA地区(あるかぽーと1番40)事業者公募も実施。今年4月には現在も同地区で遊園地「はい!からっと横丁」の運営を行っている泉陽興業(株)(大阪市浪速区)が優先交渉権者として選ばれ、同社によって今後、アミューズメント施設とスポーツ・飲食施設などを組み合わせた活用がなされていく予定だ。さらに、下関市地方卸売市場「唐戸市場」の大規模リニューアルも実施されていく方針(詳細は別項の下関唐戸魚市場(株)の代表取締役社長・阿部日佐夫氏のインタビュー記事を参照)であり、あるかぽーと・唐戸エリアにおける代表的な観光コンテンツの数々は充実しつつある。

 今後は未着手の第2工区・第3工区の開発・整備も段階的に進めていくことで、あるかぽーと・唐戸エリアがポテンシャルを発揮し、「日本を代表するウォーターフロントシティ」へと変貌していくことに期待が寄せられる。

(左)市立しものせき水族館 海響館  (右)はい!からっと横丁
(左)市立しものせき水族館 海響館
(右)はい!からっと横丁

早期実現が望まれる
新動脈「下関北九州道路」

 こうした下関市街地の2つの“核”の再編の動きとともに、忘れてはならないのが、関門海峡を挟んで対岸に位置する北九州市との新たな大動脈と目される「下関北九州道路」の実現に向けた動きだ。下関北九州道路については、本誌でもこれまで北九州市側の視点から何度か取り上げてきたが、その動きのおさらいとともに、今回は下関市側の視点で改めて取り上げてみたい。

 本州最西端に位置する下関市と、九州最北端に位置する政令市・北九州市とはこれまで、関門海峡を挟んで本州と九州との結節点となる立地から、人やモノが行き交う要衝として一体的に発展してきた経緯がある。しかし、両市を結ぶ交通網は現状、関門橋(高速道路)、関門国道トンネル(国道2号)、関門鉄道トンネル(山陽本線)、新関門トンネル(山陽新幹線)という2本の道路と2本の鉄軌道のみで、異常気象や不測の事態の際のリダンダンシーの確保が以前より問題視されていた。下関北九州道路は、そうした現状の既存道路ネットワークの課題を解消するとともに、関門橋・関門トンネルの代替機能を確保し、さらには循環型ネットワークを形成することにより、下関・北九州の両地域の発展に大きく寄与するものだと期待されている。

下関北九州道路の早期実現なるか
(彦島から対岸の西港町を臨む)

    これまで下関北九州道路の実現に向けては、国および関係自治体(山口県、福岡県、下関市、北九州市)が連携して、都市計画および環境影響評価の手続きを推進。24年5月には、国と2県2市が連携して調査した結果として、ルート(素案)がまとまった。同ルート素案で提示されたのは、旧彦島有料道路と北九州都市高速道路の日明ICとをつなぐ約8kmで、海峡部の約2.2kmは橋で結ぶとしており、道路幅員は19.5m~20.5mで、車線数は4車線(片側2車線)となっている。下関市側には「(仮称)迫町IC」と「(仮称)南風泊港IC」の2つのICを設けるほか、北九州市側には「(仮称)西港町IC」を設け、「(仮称)西港町JCT」で北九州都市高速道路と接続する。その後、同ルート素案を踏まえたうえで都市計画の手続きに着手し、25年12月に都市計画決定が告示。これにより、ルートや構造などの基本計画が法的に確定した段階にあるが、現時点では具体的な着工時期や完成時期についてはまだ示されていない。今後は国や自治体が正式に事業として採択し、予算を措置したうえで整備を進める段階に移行することで、初めて具体的なスケジュールが動き出していくことになり、詳細設計を行い、用地取得が進められ、順次工事に着手する流れとなる。ただし、下関北九州道路は関門海峡をまたぐ大規模な橋梁を含むことから、技術的な検討や施工準備に相応の期間を要することが見込まれる。

 2つの都市圏が近接する関門地域では、通勤・通学などでの下関市と北九州市との往来も1日当たり約1万人とされており、両市を合わせれば約120万人規模の広域都市圏となる。だが、現状では既存の関門橋や関門トンネルへの依存が高く、事故や災害時の代替性は十分とはいえない。人流・物流・経済活動・観光のいずれを考えても、両都心部を結ぶ新たな動脈の整備による循環型ネットワークの形成は、最重要事項の1つだ。下関市にとって下関北九州道路は、単なる都市の外縁に走る新たな交通インフラとしてだけでなく、同市における回遊性と結節性を組み替える可能性をもった基盤として大きな期待が寄せられている。

関門海峡フェリー
関門海峡フェリー乗り場跡

    なお余談だが、下関北九州道路のルートにおける海峡部にはかつて、彦島・荒田港と日明港とを結ぶ「関門海峡フェリー」が運航していた。いわば現在の2本の道路と2本の鉄軌道以外に、第5のルートとなる海上の路があったわけだが、関門海峡フェリーは利用者減少などを理由として2011年11月末をもって運航を休止。両岸にあった発着所などはすでに解体・撤去されており、事実上の航路廃止となっている。そのかつてフェリーが運航していた区間が、今度は大型の橋梁によって再び結ばれようとしているわけだ。

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 日本史の節目にたびたび登場してきたほか、本州と九州をつなぐ地勢上の重要拠点として発展し、交通の要衝としての地位が健在であることから、現在も県下最大の人口と経済規模を誇る下関市。その下関市で現在、中心市街地の2つの“核”を再編しながらも、市内の各都市拠点をつなぐ拠点連携型の都市構造の構築を図ることで、持続可能な新たなまちづくりが進もうとしている。今後は下関北九州道路の早期実現により、対岸に位置する政令市・北九州市との双方向での人流・物流の交流促進が図られることで、海峡都市・下関のポテンシャルを生かしたさらなる発展が期待される。

(了)

【坂田憲治】

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