捨てられる高齢者たち(前)
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大さんのシニアリポート第53回
これまでも機会あるごとに、主催する「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)で起きたさまざまな人間模様を紹介してきた。若干まとめきれていない部分はあるものの(実在する高齢者が利用するので、仮名やいくつかの事例をひとつにまとめたりするため)、できるだけの事実を報告した。
最近、とくに目立つのが、常連客の体調の急激な変化と、それに対する行政(市の福祉関係職員、地域包括支援センターの職員、社会福祉協議会の地域担当職員、ケアマネージャー、施設関係職員、民生委員など)の迅速な対応。それに比べて、身内(とくに子どもたち)の、実の親に対する実に冷たい目線に違和感を覚えた。明言すれば、「子どもたちが親を捨てている」という事実である。4月8日(土曜)のNHKニュース『おはよう日本』の「けさのクローズアップ(けさクロ)」で、亡くなった人の遺品を片付ける「遺品整理士」の話が紹介された。
富山県のとある都市。その部屋に住む86歳の男性が、遺体で発見された。孤独死である。警察の所見で“病死”とされた。部屋には、大量の写真と旅行のパンフレットが残されており、遺品整理士が部屋に残された遺品を整理していた。遺品整理を依頼したのは、死亡した男性の息子。「遺品はすべて処分すること」が条件だ。
死亡した男性は、過去に経営していた会社が倒産。その後、家族関係が悪化して別居。その後30年間、妻や子どもたちとの関係が絶たれた生活を送った。
この遺品整理士は以前、消費者金融の仕事をしていた。借金の取り立てで利用者を追い込んでいく生活に空しさを感じ、この仕事に転職。4年目である。これまでの仕事のなかで、遺品を扱う仕事の大切さを感じた“事件”があった。それは、「夫が大切にしていたものを探してほしい」という依頼を受けたこと。大切なものとは、妻の母親が夫のために編んでくれた手袋。夫はその手袋をいつも嬉しそうに妻に見せていたという。「その人の生きてきた人生を垣間見た気がした。(依頼者の)そういう気持ちにより添うことがこの仕事の神髄だと感じた」と語った。
遺品整理士はある決心をする。孤独死した父親の遺品のなかから幾枚かの写真を選び出し、依頼主の息子の家を訪ね、手渡した。「どうしてもお渡ししたほうがいいと思い、持ってきました」といった。息子は「ありがとうございます」と写真を受け取り、見入った。息子はその写真を見て、何を感じたのだろうか。30年間という空白の時間のなかに、確実に生きていた父親の何か(息吹、生きていた証)を感じ取ったと考えたい。
見終えて、どこか救われる思いがした。ひるがえって、以前に詳報した「ぐるり」の常連、中井要蔵(93歳)・吉乃(86歳)夫妻の場合は、後味の悪さだけが残された。その大きな理由は、息子が実の両親を捨てた現場を目撃したからだ。
親を捨てる…。人間としてあるまじき行為が、今やごく当たり前に行われている。その根底にあるものは、「親子の絆の細さ」と、それを助長した「時代の要請」だ。
(つづく)
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。関連キーワード
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