2024年12月25日( 水 )

元総合商社駐在員・中川十郎氏の履歴書(16)ブラジル・リオデジャネイロでのビジネス開拓

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日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏

リオデジャネイロ支店に着任

 ニチメン(株)ブラジルのリオデジャネイロ支店に着任して驚いたのは、支店がまだ再開して2年ぐらいしか経っておらず、日系を含めた現地雇用の従業員2人と運転手3人の「超小型の支店」であったことだ。バグダッド事務所よりも小規模で、ましてや現地雇用の従業員10名が働いていたニューデリー支店とは、現地代理店の数、過去の実績、支店の歴史の長さなどの比較において雲泥の差だった。リオデジャネイロ支店が政府関連の新規事業を開拓するのに1~2年という短期間では至難だと痛感し、今後の苦労が予想された。

 そのような状況のなか、リオデジャネイロ支店の前任者が手がけていたブラジル砂糖入札の担当を、日系の現地雇用の従業員にまかせた。そして私は、ブラジル支配人が手がけたというサンパウロに進出している日本鉄鋼メーカーの鉄塔、Y社の鉄鋼、機械用の特殊オイルをリオデジャネイロ近辺の企業向けに売り込むことに注力した。だが、売り込みは一筋縄ではいかなかった。

(1)電力会社CEMIG向けのマイクロウェーブ機器の国際入札

 そんな中、ブラジル支配人から、駐在してわずか1カ月でN社の送電鉄塔売り込みのため、ミナスジェライス州ベロオリゾンテ市にある電力会社、CEMIGへの出張を命ぜられた。同社の購買部長、技術部長に面談した結果、すでに送電鉄塔の買い付けは終了しており、当分購入予定はないという。しかし、せっかくリオデジャネイロから片道1日もの時間をかけて出張したため、このまま何の収穫もなく帰るわけにはいかないと感じた。

 そこで30分の予定であった面談時間を1時間に延ばしてもらい、今後の買い付け予定などの購買情報の収集を努めた。そして、近いうちに世界銀行の国際入札でマイクロウェーブ機器を買い付ける予定があり、通信用鉄塔も一部買い付けるとの情報を得た。

 今回のようなプロジェクトでは、コンサルタントが重要な役割をはたすことを、以前にアフガニスタンで行われたアジア開発銀行の灌漑建機入札のときに痛感していた。アフガニスタンでは、コンサルタントは灌漑工事で有名なオランダの会社だった。今回の世界銀行のマイクロウェーブ設備入札でも、コンサルタントから技術詳細情報を入手することが決め手になると判断した。そこで調べると、コンサルタントはブラジルの会社とわかり、サンパウロに本店があるという。そのコンサルタント会社の技術部長を紹介してくれと彼らに頼んだところ、承諾してくれた。

 翌日サンパウロに出張して、コンサルタント会社の技術部長に面談した。技術部長は、「CEMIGは、マイクロウェーブだけでなく、通信用光ファイバー、さらに電子交換機も購入計画を立てている」という。そこで、ただちに日本のニチメン機械部に入札情報を伝え、N社の日本の窓口を押さえるよう依頼した。しかし、すでにN社にはM商社より、入札情報が入り、応札の準備中だという。

 この状況を巻き返すには、ブラジル現地のCEMIGやコンサルタントとの強固な人脈、詳細な入札情報をN社に提示することが不可欠だと判断した。そのため、再びCEMIG技術部長、購買部長、コンサルタントの技術部長と面談し、入札情報や技術情報の収集を行い、この国際入札の最大の競争相手は米国の「ハリス・コントロール社」であるという極秘情報を入手し、N社に提供した。

 これらの情報と人脈を高く評価してくれたN社は、入札の正式代理店にニチメンを起用することを決定した。M社を副担当の商社として、事例に合わせて活用するから了解してほしいと連絡を受けた。

 国際ビジネスにおいては、徹底した情報収集と分析、さらに情報の活用がいかに大切であるかを示す典型的な事例だ。

(つづく)


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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