2024年11月24日( 日 )

急落に向かう菅義偉内閣支持率

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を紹介する。今回は、「各種メディアは情報を操作して菅内閣の高支持率を演出してきた。しかし解散総選挙先送りにより、菅内閣の重要機関の私物化などが明らかになり、内閣支持率、与党支持率が急落する可能性が高い」と訴えた10月3日付の記事を紹介する。


日本学術会議の新会員任命に関して、菅義偉首相が、日本学術会議が推薦した会員候補105人のうち6人の任命を拒否した。
6名は安保法制や共謀罪などに批判的だった人。
学術会議が推薦した人を首相が拒否することは過去一度もなかったとされる。

中曽根康弘元首相は、首相在任中の1983年に「政府が行うのは形式的任命にすぎない。学問の自由独立はあくまで保障される」と答弁している。

日本国憲法は第23条で
第23条 学問の自由は、これを保障する。
と定めている。

日本学術会議が推薦した会員候補を内閣総理大臣が任命拒否した事例はこれまでなかったとされると既述したが、毎日新聞が過去にも事例があったと報じた。
https://bit.ly/34iy8hH

毎日新聞によると、2016年の23期補充人事の際に「学術会議が候補として挙げ、複数人が首相官邸側から事実上拒否された」ことを日本学術会議の複数の元幹部が毎日新聞の取材に対して明らかにしたという。

元幹部の1人である同会議元会長、広渡清吾・東京大名誉教授が、第23期の補充人事の際に学術会議が官邸側に伝えた新会員候補のうち複数人を官邸側が認めず、候補者を差し替えるよう求めてきたことを実名で証言したと毎日新聞は伝えている。
このとき学術会議側はこれに応じず、一部が欠員のままになったという。

内閣総理大臣が学術会議推薦候補者を任命拒否する事態は、安倍内閣下の16年から発生していたことになる。

加藤勝信官房長官は10月2日の記者会見で、首相の任命権を定めた日本学術会議法について18年に内閣府と内閣法制局が協議し「解釈を確認した」と述べた。
このときに、任命拒否も認められると条文解釈を変更した可能性も指摘されている。
ただし、これは18年であるから、16年の任命拒否とは時間的な順序が逆になる。
16年の事例を踏まえて18年に条文解釈を変更した可能性が浮上する。

憲法学を専門とする東京都立大学の木村草太教授は、憲法23条が保障する学問の自由には、
「個人が国家から介入を受けずに学問ができること」
と、
「公私を問わず研究職や学術機関が、政治的な介入を受けず自律すること」
の2つが含まれるとし、学術の観点から提言をする日本学術会議は、学術機関の一種であるとする。

そのうえで、
「憲法23条は『公的学術機関による人選の自律』も保障しており、今回の人事介入は学術会議の自律を侵害している。学問の自由に、公的研究職や学術機関の自律が含まれるのは、一般的な解釈だ」
と指摘している。
https://bit.ly/34nX9bt

報道によると菅首相が任命を拒否した以下の6人。
松宮孝明氏(立命館大教授、刑事法学)
小沢隆一氏(東京慈恵医大教授、憲法学)
岡田正則氏(早稲田大教授、行政法学)
宇野重規氏(東京大教授、政治学)
加藤陽子氏(東京大教授、歴史学)
芦名定道氏(京都大教授、キリスト教学)

松宮氏や小沢氏は、安倍内閣下の国会が創設した「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法や「安法法制」に対して国会で反対意見を述べた。
宇野氏、岡田氏、芦名氏は「安保法制」に反対する立場を示した。
加藤氏は安倍内閣下の国会が制定した「特定秘密保護法」や憲法改正に反対していた。

こうした事実関係から、今回の任命拒否が菅首相による恣意的な人事介入で、憲法が保障する学問の自由を侵害するものとの批判が強まっている。

過去の経緯を踏まえると、菅首相が今回、新規に始めた対応ではなく、安倍内閣が始めた学問の自由を侵害する恣意的な人事介入を菅首相がそのまま継承したものであるといえる。
10月下旬に召集される臨時国会で、この問題が大きく取ら上げられることは間違いない。

各種メディアは情報を操作して菅内閣の高支持率を演出してきたが、早くもその人為的操作の効果が息切れになり始める。
菅首相が年内の衆院解散総選挙を見送る可能性が高いとの観測が強まっている。

菅首相は首相在任期間の長期化を目指して総選挙先送り戦術を採用するものと見られるが、政権長期化どころか政権喪失、自民党野党転落の可能性すら生じることになるのではないか。

「菅自民はおしまいDEATH」の言葉が急に信ぴょう性を高め始めている。

人事権の濫用・権限の濫用が安倍内閣の最大特徴だった。
法文上、内閣総理大臣、あるいは内閣には強大な権限が付与されている。
法の本旨を無視して、形式上の権限だけを濫用すれば内閣総理大臣による独裁が成立してしまう。

これは日本国憲法が抱える重大な欠陥であるともいえる。
安倍内閣による権力濫用はとどまるところを知らなかった。
安倍首相、安倍内閣は権力濫用により権力機関、政府関連機関、その他の重要機関の支配、私物化を続けてきた。

5つの重要機関の私物化を提示できる。
裁判所
日銀
NHK
検察
そして官僚機構だ。

最高裁長官は内閣が指名し、天皇が任命する。
最高裁の長官以外の裁判官は内閣が任命する。
下級裁判所の裁判官は最高裁が提出する名簿に従い、内閣が任命する。

裁判所裁判官の任命権を内閣が握っている。
この権限を濫用すれば裁判所を支配できる。
三権分立ではなく内閣、内閣総理大臣による独裁になってしまう。

日銀総裁、副総裁、審議委員は国会同意人事であるが、内閣は恣意的に人選を行っている。
そのために、日銀の独立性は完全に形骸化し、日銀が政権の私的機関に堕してしまっている。
政策の継続性は遮断され、日銀の本来の目的も達成されない状況が生じている。

NHKの最高意思決定機関は経営委員会。
内閣総理大臣は経営委員の任命権を有している。

放送法第31条は経営委員会委員について、
「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する」
と定めているが、安倍首相はこの条文の前段を無視した恣意的人事を強行してきた。

そのためにNHKが完全に私物化されてしまった。
安倍内閣はこの人事権濫用を検察にまで拡大した。

検察人事に不当に介入して黒川弘務氏の定年を無理やり延長し、検察庁法を不正に改悪して黒川氏を検事総長に引き上げようとした。
黒川氏の常習賭博行為によって、ぎりぎりのところでことなきを得たが、安倍内閣の検察への人事介入、不正な刑事司法支配は極めて深刻な状況に至っていた。

菅首相は内閣の方針に従わない官僚を異動させる方針を明言したが、その人事権行使が合理的な根拠に基づく正当なものであるのかどうかが重要だ。

菅義偉氏は「ふるさと納税」制度を創設したことを手柄話にしているが、この構想に総務省幹部が反対意見を述べた。
ふるさと納税は富裕層の節税対策になってしまい、税収全体が返礼品の影響で減少する弊害を有している。
このことを指摘した総務省幹部を菅義偉氏が左遷した。
正しいことを述べた官僚を左遷するのは人事権の濫用そのものだ。

菅首相が学術会議新会員の任命を拒否したことについて、日本共産党の宮本徹衆議院議員がツイッターで次のように指摘した。

「日本国憲法第6条『天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する』日本学術会議法第7条2『会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する』。
『~に基いて、××が任命する』という解釈が、××が任命を拒否できるという解釈になると大変なことになる」。

天皇は国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命するが、天皇が内閣総理大臣の任命を拒否し始めれば大混乱になる。

菅新内閣の傍若無人性、ファッショ的性格が早くも浮き彫りになり始めている。
その菅首相が解散総選挙を先送りすることは、政治刷新を求める人々にとって朗報である可能性が高い。

菅内閣の正体が明らかになるにつれて、内閣支持率、与党支持率が急落する可能性が高いからだ。
政権刷新を求める市民と政治勢力は一刻も早く候補者調整を進展させて、決戦の次期衆院総選挙に備える必要がある。


▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』

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