東京オリンピックは健全な世界を取り戻すチャンスに衣替えを!(1)
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国際政治経済学者 浜田 和幸
最終決断はバイデン大統領?
新型コロナウイルスの影響で1年延期された東京オリンピック・パラリンピックは今年7月23日から開催される予定ではあるが、従来のようなかたちでの実現は無理だろう。イギリスの報道によれば、日本の政権与党幹部は「オリンピックの中止を内々決定した」という。もちろん、日本政府は大慌てで、「予定通りの開催」を主張し、情報をリークした犯人捜しに奔走しているという。
国際オリンピック委員会(IOC)でも「中止の決定はなされていない」と日本政府と歩調を合わせている。IOCのバッハ会長も「7月に開催されないと信じる理由は現段階では何もない」と繰り返し、中止論の打ち消しに必死になっているようだ。感染症の懸念はあるものの、歴史を紐解けば、問題なく開催に至った例はいくつもある。
たとえば、1920年、ベルギーのアントワープで計画されていたオリンピックは、スペイン風邪の流行により世界中で4,000万人もの死者が出た直後にもかかわらず、予定通り開催されている。また、2010年のカナダのバンクーバー冬季大会のときには豚インフルエンザが蔓延していたが、公衆衛生対策を徹底することで開催することが可能となった。さらには16年、ブラジルのリオデジャネイロ大会の際にはジカ熱が流行していたが、感染防止対策を施すことで開催に漕ぎつけた。
とはいえ、現在のコロナ禍の猛威は前代未聞で、世界ではすでに1億人を超える感染者が発生し、拡大に歯止めがかかりそうにない。そのため、内外から「東京オリンピックは本当に開催できるのか」と不安視する声が日増しに大きくなってきているのも事実。そうした懸念を払しょくしようとしてか、日本オリンピック組織委員会の役員を務める電通出身の高橋治之氏は奥の手を繰り出した。
去る1月27日付の「ウォールストリート・ジャーナル」紙の取材に答えるかたちで、「アメリカのバイデン新大統領からお墨付きをもらえば、東京オリンピックの開催は心配ないだろう。言いたくないが、IOCのバッハ会長では決定権がない。開催に関する最終的な判断が下せるのはアメリカの大統領だ」との驚くべき発言である。
高橋氏の主張の裏には、「東京オリンピックに最大の選手団を派遣し、テレビの放映権を握っているのはアメリカだ」という冷徹な判断があるに違いない。さらにいえば、「アメリカは日本の最大の同盟国であり、軍事面でも日本を守っているわけだから、そのアメリカの大統領が大丈夫と太鼓判を押しさえすれば、日本や外国で開催を危ぶんでいる人たちも安心するだろう。そうなれば、各国の選手団の派遣も順調にいくに違いない」との思惑が隠されていたようだ。
しかし、IOCは即座に反論し、「高橋氏の発言は時代遅れだ。残念ながら、高橋氏は実情を理解できていないようだ」と、あくまで予定通りの開催に固執し、「バイデン大統領を持ち出すのはお門違い」ということを強く訴えた。アメリカのオリンピック委員会からも「アメリカの選手団の派遣については何ら疑問も問題もない」と声明が出されることになった。
実際、バイデン大統領からは、東京オリンピックについてとくに発言はなされていない。大統領就任後の菅総理との電話会談でも、「東京オリンピックは話題にならなかった」といわれている。ホワイトハウスの記者会見でも、この点について質問が相次いだようだが、ベテランのサキ報道官からは「この件については承知していない」との愛想ない返事しか返ってこなかった。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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