東京オリンピックは健全な世界を取り戻すチャンスに衣替えを!(2)
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国際政治経済学者 浜田 和幸
汚名を避けたい菅首相
放映権を独占するアメリカのNBCテレビにしても、万が一東京オリンピックが中止になった場合でも、経済的な損失は保険でほぼカバーされる。80年のモスクワ大会をアメリカがボイコットした際も、その損失は保険で補てんされた。要は、アメリカにとっては東京オリンピックが開催されなくても懐は痛まないというわけだ。しかし、中止になった場合、日本にとっての経済的損失は計り知れない。それどころか、再度、日本へオリンピックを招致することができなくなるに違いない。
だから、菅総理は「オリンピックを棒に振った男」との汚名を避けるために、開催をあきらめることができないのであろう。開催を実現するためには、何があってもワクチンを確保しなければならない。当初、東京オリンピック組織委員会の会長を務める森喜朗元総理は「コロナを抑えるワクチンが準備できなければ、2021年の東京オリンピックはありえない」と中止の可能性に言及していた。
安倍前首相も国会答弁で、「東京オリンピックを成功裏に開催するにはコロナ・ワクチンの開発が最重要課題となる。もしコロナ禍が抑え込めなければ、オリンピックの完全なかたちでの開催はあり得ない」と発言。日本医師会でも昨年4月末の時点で、「ワクチンがない状態でのオリンピックの開催は考えられない」との声明を出していた。
確かに、1万1,000人もの選手が海外から集うわけで、感染防止は至難の業となることを懸念するのは当然であろう。国民の間でも不安感が先立っており、直近の共同通信による世論調査でも3分の2が「再度の延期か中止が望ましい」と答えている。NHKの世論調査(1月13日発表)でも77%が「中止」あるいは「さらなる延期をすべき」と回答し、「開催すべき」は16%に過ぎなかった。
ところが、万が一、中止という事態になれば、日本国内のスポンサー企業は一斉に契約の更新を拒むことが懸念されるし、すでに販売済みのチケットの払い戻しの対応も迫られる。日本のスポンサー企業68社は過去のいずれのオリンピック大会と比べても2倍以上となる3,500億円を東京オリンピック組織委員会に支払っている。
しかも、みずほフィナンシャルグループによれば、「東京オリンピックの経済効果は全国で30兆円」と推定されていたため、もし中止された場合の経済的損失は取り返しがつかないものとなる。オリンピック担当大臣に再任された橋本聖子衆議院議員も「ワクチンが広く普及していなくても、オリンピックは何があっても開催する」と強気である。
実は、東京オリンピックは安倍前首相の肝いりのプロジェクトでもあり、前回のリオデジャネイロの大会には極秘裏に準備した「スーパーマリオ」に扮して閉会式にサプライズ登場したほどであった。もちろん、そんな安倍氏を官房長官として支えてきた菅義偉新首相も水面下で東京誘致に深く関わっていた経緯から、新型コロナウイルスという伏兵が立ちはだかるとは想像できなったにしても、「是が非でも21年の東京オリンピックを実現せねばならない」との思いに駆られていることは想像に難くない。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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