2024年12月22日( 日 )

小売こぼれ話(9)百貨店の凋落と新参者(前)

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総合スーパーの経営者も百貨店を夢見た

百貨店のある街 イメージ 百貨店の低迷が話題になって久しい。その昔、百貨店は庶民の憧れだった。地方の小学校の修学旅行先の1つに百貨店があることも少なくなかった。

 「晴れ(ハレ)の日」、「褻(ケ)の日」。昔からこの2つは厳然と区別された。しかし、高度成長が終わったころから、この境が消えた。

 「ハレの日」の小売業の典型が百貨店だ。そこには十分に吟味された商品があり、親切で商品知識の塊のような店員がいて、痒いところに手が届くサービスを提供した。

 戦後、庶民の暮らしに余裕が生まれた。とくに都会では富裕層と呼ばれる消費階層が生まれ、そのライフスタイルが普通の家庭にも影響した。少し背伸びをすれば、今までの暮らしの色が変わる。日常ではないが、たまのハレ気分で百貨店に行く。1億総中流。そんな流れに期待し、大手百貨店が地方の県庁所在市に出店する。

 百貨店を夢見たのは豊かになった消費者だけではない。今も同じだが、日本型大型店と百貨店の売り場を見比べると、その質の差は歴然で、負けず嫌いがそろう日本型大型店の経営者たちも「いつかは百貨店を」と夢見た。

 最終目標は百貨店。軒先三間から出発した日本型GMS(総合スーパー)のイトーヨーカドーもダイエーも長崎屋も寿屋も、創業者たちはそこに着地したかった。そして、実際に百貨店をつくった。なかには、ヨーロッパの有名百貨店と提携したケースもあった。

 彼らはなぜ百貨店にこだわったのか。それは自らの社会的評価を高めたかったからにほかならない。「スーと出てパーと消える」。昭和40年代に急成長した日本型GMSは世間からそう揶揄された。業態による棲み分けという考え方は薄く、彼らの考え方は「量の次は質」という極めて人間の欲求に沿ったものだった。百貨店のように接客を重視し、商品も値ごろ感のあるものから高額品へとシフトした。だが、その思いは挫折した。

失われ続けた30年

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 百貨店は取引先と鉄の取り組みをもつムラであり、日本型大型店がいくら大きく立派な建物をつくっても、商品提供者は見向きもしなかった。そんな理由で、日本型GMSが手がけた百貨店はいつの間にか雲散霧消した。

 もし、百貨店納入業者が日本型GMSの要求に応じていたら、彼らの夢が実現したかというとそれは否だ。理由は市場そのものがないからだ。百貨店の売上規模のピークは年間9兆円余り。バブル崩壊とともに市場も崩壊した。コロナ禍で揺れた昨年度は4.5兆円を切るところまで凋落した。最盛期の半分以下である。

 百貨店の不振はアメリカも同じだ。米国でも老舗百貨店、有名百貨店の倒産や店舗閉鎖が相次いでいる。150年の歴史を持つ大手のメイシーズも昨年、向こう3年で125店の閉鎖とそれにともなう社員のリストラ計画を発表した。

 ほかの百貨店も似たような状況で、新型コロナの影響もあって2020年は前年比54%という大幅な落ち込みだ(米商務省商業センサス)。

 我が国も似たようなもので、73%(商業統計)の落ち込み。この数値の向こうに透けて見えるのは、さらなる店舗閉鎖であり、業態そのものの極小化だ。

 この傾向はデパートに限ったことではない。我が国の小売、飲食業は世界的に見ても特異な状況下にある。アメリカの場合、20年の売上は1998年に比べると2倍以上になっているが、我が国は80%強に過ぎない。まさに消費の氷河期である。

 そうした状況のなかで登場したのが、「売らない百貨店」というコンセプトだ。大丸松坂屋が新興ブランドのオンライン専用ショールームを新設するという。さらに、店員が接客し、気に入れば商品のバーコードをスマホで読み取り、客が直接メーカーから購入するというシステムも併せてテストする。

 「売らない百貨店」とは斬新な表現だが、うがった見方をすれば、従来のかたちを変えた「売り場貸し」にほかならない。こんな手段で、業績低下に歯止めがかかるとも思えない。最後には、主要都市に限られた店が残るというかたちに落ち着くのかもしれない。

 「lost decade」(失われた10年)。1990年代初めのバブル崩壊から経済全般の低迷が10年ほど続いた期間を指して、経済界やマスコミで盛んに使われた言葉だ。10年ひと昔。「そろそろ景気も…」との期待も込められた言葉だった。

 しかし、それは「lost score」「lost generation」への入り口に過ぎなかった。当時の働き盛りはすでに引退し、失われた10年は言葉としては化石だが、その後の20年間、同じ状況が今も続く。百貨店は本物の化石になるのかもしれない。

(2009年)リーマン直後と2020年比較

(つづく)

【神戸 彲】

(8)-(後)
(9)-(後)

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