2024年12月23日( 月 )

ストラテジーブレティン(296号)2022年の米金融政策展望と米国で進化する株式資本主義(5)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年12月9日付の記事を紹介。

(5) リスクは株式資本主義を否定する政策

株価バブル説が政策に受け入れられれば、自己実現的にバブルになる

 株は乱高下するリスクの高い資産である。これは貯蓄手段としては望ましくないという議論をする人がいる。また米国の株価はPBR4倍と主要国のなかでは突出して高くなっている。さらに株式時価総額のGDPに対する米国の比率は240%と過去の平均から大きく乖離している。このような、尺度から見ると米国株価がバブルに見えることは無理もない。ではこれがバブルで潰れるかどうか。いったい何を見極めればいいのかというと、それは政策に尽きるだろう。これがバブルだ・危険だと認識し、株式中心の金融を抑制し禁止する政策をとれば、株価が暴落し大不況になり、結果として、これはバブルであったということになりかねない。そのようなことを主張しているのが、アメリカ民主党のエリザベス・ウォーレン議員など左派、いわゆるプログレッシヴといわれる人々である。彼らは自社株買いを抑制し、金融所得に増税をする等というかたちで株価中心の金融の在り方を変えようとしている。幸いなことにその議論はアメリカの政策当局も市場も多くのエコノミストも支持していない。従って今のアメリカの株式中心の金融の在り方は存続し、結果として株高が正当化されるということが続いている。もちろん株高を正当化するだけの企業における十分な価値創造もある。だから大丈夫なのだというものが武者リサーチの主張である。遠い将来この株式中心の金融の在り方を変えようというような政治的な動きが出てきたときには警戒をしなければいけないと思われる。

 日本では岸田政権が新しい資本主義ということを提起している。しかし、岸田政権が主張する新しい資本主義は、今、アメリカで展開されている株価中心の株式資本主義とはまったく異質なものである。むしろそれに異を唱えるような、アメリカでいえばエリザベス・ウォーレン氏などの左派の人々の主張している政策が部分的に盛り込まれそうである。たとえば、金融所得増税、このような政策を岸田政権が打ち出すとすれば、これはアメリカに、大きく遅れをとっている日本を、さらに遅れさせる大きな要因となりかねない。2022年、日本の金融に関する政策をウォッチしておく必要がある。

本質的には、恒常的資金余剰を解決する政策が求められる

 最後に、株式資本主義の枠組みを守り発展させることが望ましいが、恒常的カネ余りが放置され、株式への偏った資金流入が続くことで、投機化しないようにすることが大切である。本質的な解決策は、成長率を高め資金余剰状態を解消し、金利が上昇する環境をつくり出すことである。財政政策やユニバーサルベーシックインカムなどの社会的セーフティネット構築、グリーン投資などを駆使した、需要創造が求められる。それにより過度の株式市場への投資偏重が是正される必要があるだろう。政治、政策への期待が大きく高まる時代である。

図表17:主要国株式PBR推移/図表18:日米株式時価総額対名目GDP比
図表17:主要国株式PBR推移
図表18:日米株式時価総額対名目GDP比

(了)

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