2024年11月28日( 木 )

プーチンのウクライナ侵攻、ロシア凋落の始まりか(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2022年3月4日の「プーチンのウクライナ侵攻、ロシア凋落の始まりか」を紹介。

経済制裁でプーチン氏を引き下ろせるか?

 このように整理すると、ウクライナが徹底抗戦姿勢を変えないとすれば、プーチン氏の退陣のみが究極の解決策となる。ロシア内部での厭戦気分の高まり、プーチン批判が相当に高じなければ政権の交代はなかなか起きないかもしれない。EU、米国の対ロシア経済制裁、SWIFTからの排除、金融制裁、経済でのダメージが相当高まることが必要である。ではSWIFTからの排除などの経済制裁の効果はどれほどであろうか。天然ガスの最大の顧客であるドイツの政策大転換はプーチン氏にとって痛手であるが、短期的に大きなダメージにはならないかもしれない。なぜならロシア最大のズベルバンク、第三位のガスプロムバンクは引き続きSWIFT排除の対象外になっており、引き続き石油ガス供給を続けることができるのである。

図表4: ロシアに対する金融制裁 (日本経済新聞)

ルーブル暴落、インフレの帰趨がカギに

 むしろ、同時に打ち出されたロシア中銀と日米欧中銀との取引停止、ロシア外貨の凍結のほうが大きな影響をもつかもしれない。こうした事態に備え、ロシアは外貨準備を大幅に増やし、かつその中身を大きく分散化、制裁に堪えうる体制を整えてきたようである。ロシアの保有する外貨準備高はウクライナ侵攻直前には6,430億ドル(74兆円)と、ボトムの2015年に比べ7割りも増加させていた。昨年6月時点での内訳はユーロ32.3%、金21.7%、米ドル16.4%、人民元13.1%、英ポンド6.5%、日本円5.7%、カナダドル3.0%などとなっている。このなかで、すでに米、英、カナダ、欧州連合(EU)、日本がロシアの外貨準備を凍結しており、それはロシア全体の約6割にのぼる。周到に金や人民元の比重を高めてきたが、それでは到底間に合わない。ルーブル大暴落に対応した外貨介入ができなくなり、大幅な金利引き上げを余儀なくされているが、それでもルーブルはウクライナ侵攻前の78ルーブル/ドルから117ルーブル/ドルへと5割の大暴落になっており、深刻なインフレが懸念される。IIF(国際金融協会)はロシアのデフォルト(対外債務不履行)公算大としている。ロシアは10%を超える経済成長の落ち込みを余儀なくされるだろう。

図表5: ロシアの外貨準備高内訳 (2021年6月末)/図表6:ロシア外貨準備高推移

 EU、米国、日本の順に返り血浴びるが、リセッションは回避できよう。
 他方、ロシアにエネルギーを依存している欧州も返り血を浴びることになるが、ガス・原油価格の上昇の悪影響は限られよう。第三次石油ショックのような惨事は考えにくい。米国でのシェールガス・オイルの増産、カタール、アルジェリアへの転換も可能である。米欧では最大で1%程度のCPI上昇があり得るとしても、リセッションに陥るほどのことにはならないだろう。経済はロシアの1人負けになるのではないか。

図表7: 世界の天然ガス生産量 (2020年)

このままではロシアは発展途上貧国に凋落へ

 となると、株式市場への悪影響は限定的になるだろう。むしろ金融引き締め圧力が弱まること、ドイツの政策大旋回に見られるように、世界の民主主義国家団結が強まり投資心理に好影響が期待できる。そのなかで、産業基盤が弱体化し、資源依存の新興国型の経済構造に陥っているロシアは一段と困難が進行する。ロシアの経済プレゼンスの凋落は必至で、いずれエネルギーにのみ依存する開発途上貧国に転落するかもしれない。

図表8: ロシアの品目別輸出額推移/図表9: ロシアの主要相手国別輸出・輸入額推移

(了)

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