2024年11月28日( 木 )

ウクライナ戦争とエネルギー安全保障(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2022年3月16日の「ウクライナ戦争とエネルギー安全保障」を紹介。

見込み違いのプーチン氏、勝利の可能性はなくなった

エネルギー イメージ    軍事、地政学の専門家ではないが、一定の論点整理を試みたい。電光石火の攻撃により緒戦で勝利し、ウクライナ側に(1)非武装中立化、(2)クリミア半島の主権譲渡などをのませるというプーチン氏の目論見は完全に失敗した。傀儡政権の樹立も今では難しくなっている。

 プーチン氏の見込み違いは、敵を甘く見たことに尽きる。(1)ウクライナ国民の抵抗、(2)国際民主社会の結束(EUおよび非同盟欧州)、(3)米国の強靭さに対する軽視である。米国についてプーチン氏は、アフガン撤兵の混迷でバイデン政権の無能さが露呈された、また米国国内にはロシアの要求(NATO東進拒否)には合理性があると考える人々、トランプ前大統領が掲げたアメリカファーストと孤立主義の信奉者がおり、ウクライナへの介入はないと踏んだのだ。

 チキンレースが始まった。プーチン氏は2回目の見込み違いをするだろう。緒戦でもたついた分をさらなる強硬策で突破し、ウクライナ側の屈服を勝ち取ろうとするだろう。プーチン氏のdouble down(2倍賭け)戦略である。原発攻撃はdouble downそのものかもしれない。

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 キエフをめぐって市街戦が始まり、流血の惨事が一気に拡大しそうである。生物兵器、化学兵器の使用が始まるかもしれない。第三次世界大戦へのエスカレートを回避したいバイデン政権との肝試しが始まった。バイデン氏は「ウクライナ国内でロシア軍と対戦しない」と明言しているが、ウクライナ国内の残虐にいつまで耐えられるだろうか。バイデン政権は1インチたりともNATO領域を侵させないことをレッドラインとしているが、ウクライナのジェノサイドをいつまでも見逃すことはできないはずである。

とうとうWSJはNATO参戦準備を提起

 米国・NATOがプーチンの暴虐に耐えられないのは、より強力な現状変更勢力、台湾を自国領土として取り返すことを国是としている中国が控えているからである。ここで侵略が正当化される前例がつくられれば、台湾併合を狙う中国に大きなインセンティブを与えることになる。ウクライナ戦争は将来予想される台湾有事の格好の土台になるはずである。WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)はNATO参戦準備を提起し始めた(3月14日社説)。

 よってウクライナの敗北はあり得ないだろう。結局は、プーチン氏の野望に相応の懲罰が科されることになるだろう。ロシアは西側による経済制裁、頼みの綱であるエネルギーも取り上げられ、大ロシア主義は破綻、発展途上貧国として長期停滞を余儀なくされるだろう。

(つづく)

(後)

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