【神風、円安2】TSMCの日本拠点強化と日台協力が産業復活のカギ(3)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は2022年5月6日の「日本産業復活の神風、円安がやってきた!!(2)TSMCの日本拠点強化と日台産業協力がカギに」を紹介。TSMCが日本拠点に注力するという想定、十分に根拠あり
TSMCは台湾一国生産体制だが、それはTSMCにとってもリスクである。インテルはEUの補助金も受けて、欧州に製造拠点の建設を計画している。
円安が定着し日本工場の採算向上のめどが立ったことで、TSMCが日本での生産拠点を増強していく公算が強まるのではないか。3つの要因が考えられる。
第1は、半導体技術の進化である。TSMCが先行している線幅縮小競争による微細化は限界に近づきつつあるとみられている。18カ月で2倍になるというムーアの法則が限界に近づき、それを突破するには3D(3次元)化、チップレット化などの新技術によるブレークスルーが必要になってくる。となると、シリコンウエハー上に回路を焼き付け組成する前工程ではなく、それを組み立てる後工程の技術進化が重要になり、素材メーカーと装置メーカーとのシナジーが不可欠になる。それらの周辺技術では世界最強の基盤をそろえている日本の協力が必須になるかもしれない。
第2に、日本政府の長年にわたる熱心な誘致により、日台協力の土台ができている。経産省主導の下、筑波の産総研内に2ナノm微細化の前工程試作ライン、3D化に対応した後工程プロジェクトが立ち上がっており(2021年)、後工程プロジェクトにはTSMCが主導的メンバーとして参加している。TSMCが台湾外に研究開発拠点を展開するのは筑波が初めてである。後工程プロジェクトのコーディネーターTSMCの下で、多くの日本素材・装置メーカーが参画している(図表10参照)。TSMCは2019年から東大と先端半導体技術アライアンスを締結しており(図表11参照)、重層的な技術協力関係が構築されつつある。この日本の謙虚さは、日本とともにTSMC半導体工場誘致を争った米国との違いを浮かび上がらせる。後述するTSMC創業者モーリス・チャン氏の米国に対する苦言を参照されたい。
第3に、スマホが成熟期に入り、新たなハイテク機器需要がどのようなものになるのかという端境期に入ってきた。5G、IoT、EV、そしてスマートロボットの時代の新旗艦製品が日本で生まれる可能性もあり、日本に欠けていた半導体需要が再び活発化するかもしれない。日本には各種の機械メーカー、電機メーカーもそろっている。新機種の多くが日本で生まれる可能性は十分にある。
このように検証していくと、TSMCが台湾外に構築する半導体製造拠点として、日本が最も有利な条件を兼ね備えていると考えられるのではないか。日本との連携は中国の侵略リスクに対する備えとして、台湾にとっても地政学的な意義がある。
TSMCは米国の支援に不信、日本に擦り寄る?
創始者モーリス・チャン氏のコメントが話題になっている。「米国は、自国での半導体生産を拡大しようとしているが、米国には製造業の人材がすでにいない。台湾製よりも50%もコストが高く数百億ドルの(半導体業界への)補助金では、米国で半導体生産を進めるには、かなり少ない額だ。520億ドル(約6兆6,000億円)の補助金法案、いまだ上下院で法案がまとまらず、可決の見通しすら立っていない。米国は、もう昔のような(半導体が強い)国に戻ることは不可能だ」(日経新聞4月23日付)。このように発言し、米国への不満を露わにした。
対照的に日本の生産拠点としての優位性を示唆したものとして受け取れないだろうか。
(つづく)
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