2024年11月23日( 土 )

逢いたい人に会えない憂鬱(後)

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大さんのシニアリポート第116回

 とうとう根負けして「芋煮会」を開催することになった。コロナ禍中、ソーシャルディスタンスを守り、マスク、手洗い、小声での会話、アクリル板、マイクの消毒…。必要なものは何でも手がけた。ところが人気のカラオケの機械が突然故障してしまう。「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)の常連客のモチベーションが一気に急降下。「何かイベントをヤレ!」の大合唱が起きた。3年もの長きにわたるストレスがたまりにたまり、爆発寸前。「感染」という杞憂は残るものの、後戻りはできない。旨い芋煮をつくることができる妻を口説かなくてはならない。アア…。

サロン 幸福亭ぐるり    私が住む地域でもコロナを心配して外に出ることを躊躇する高齢者がいる。「ぐるり」の常連客が誘っても拒否し、せいぜい電話での会話で済ます場合が多いと常連客は嘆く。普段から付き合いの薄い人にとっては、さらに人との出会いは困難を極めるだろう。いわゆる「孤独を愛する?」独居高齢者の場合は‘死’との隣り合わせで毎日を送ることになる。もちろん本人にその危機感は薄い。実際、私が住む公営集合住宅で昨年4件の孤独死事件が起きている。全員が独居高齢者で友人はゼロに近く、遠くに住む身内がたまに訪ねてくるだけだ。隣近所に友人がいない分孤独死の危険度はマックスに近い。

 「孤独は1日15本の喫煙以上に有害で、英国におよぼす損失は4兆8,000億円に達する。多賀幹子さんが近著『孤独は社会問題』で紹介した。英国では官民挙げて孤独対策が盛んだという。リタイアした高齢者が集まる『男たちの小屋』という活動も話題を呼ぶ。学校用の遊具や公園のイスを手づくりする場だが、主眼はむしろ男性たちを社会に引き出すきっかけづくり。工房は600カ所に迫りつつある。さすが世界に先駆けて『孤独担当相』を置いた国である」(『朝日新聞』2021年12月29日「天声人語」)とある。

 外との交流をもちにくい一人暮らしの高齢者に安否確認の電話をかけて言葉を交わす「見守り電話」の利用が増えているという。「さいたま市南区のNPO法人『このまちで暮らす会』では、毎週、女性スタッフが登録している高齢者92人に安否確認のための見まもり電話をかけている。1分に満たない電話が多いが、会話がはずんで悩み事を話してくれることもある。応答がない場合は翌日にも電話し、3日間通じない場合には緊急連絡先の親族らに知らせる。上田寧代表理事は、『単身でなくとも、外部との交流が減れば1人になったときにいきなり孤立してしまう状況もある。将来のことも考えて、気軽な外とのつながりの1つとして利用してほしい』と話す」(『朝日新聞』2021年12月17日)。

    埼玉県春日部市で実施している「高齢者安心見守り事業」にも利用者が増えている。「『第5波』になった夏から秋にかけての時期を中心に、電話が長引くケースが相次いだ。『私は大丈夫かしら』『外出できない。墓参りにも行けない』『毎日だれとも話していない』などと、10分を超えて不安を口にする利用者が増えた」(同)という。「不安だ」「寂しい」「誰かと話をしたい」と声を挙げる高齢者ならまだ助けようがある。なかには救助のサインをまったく出さない高齢者も多いのだ。

 「孤独死は恥だ」と宣言し、団地内に「孤独死予防センター」を開設。徹底した孤独死回避のための見守りを実践した、千葉県松戸市UR常盤平団地(昭和35年竣工、築62年)自治会長(当時)中沢卓実さんが独自の見守りを実践した。逆に孤独死という最悪の状態を内外にさらけ出し、「団地の住民を見守る」と宣言したことで住民に安心感を植え付けた。そうすることで「常盤平団地は安心して住める」という風評が有利に働き、近隣の建替えを終えたUR団地の埋まらぬ空き室を尻目に、満室の状態が続く。

 不名誉なこと、嫌なことも隠さず公表し、解決のために確実に実践するという見事なまでの権謀術数力。こうしたカリスマの存在が、腰の重いUR(都市再生機構)という巨大な組織をも動かすことが可能となったのである。私が運営する「サロン幸福亭ぐるり」も中沢さんのつくった高齢者の居場所「いきいきサロン」を真似した。公的な居場所ということで家賃が半額だ。

 さて、手元に残された3枚のCD、一緒に聞いてくれる学友はいるのだろうか。その前に私を含めた仲間の昇天だけは避けたいのだが…。

(了)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

(第116回・前)

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