2024年11月25日( 月 )

孤立する人、しない人(前)

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大さんのシニアリポート第119回

 運営する高齢者の居場所「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)を訪れる客層が、最近少しばかり変化した気がする。昨年11月、地域にある公民館を拠点に「おやじアコギ倶楽部」を創設した。文字通り参加資格は「自分がおやじ」と自覚できる人のみ。若いときにバンドを組んだり、趣味で弾いたりしていたものの、肝心のギターを押し入れの奥深くしまい込んでいた人たちだ。

 プロのギタリストを講師に招き、本格的な演奏を目指す。公民館使用の抽選に外れた場合は「ぐるり」での練習になる。それを機に、ギター持参の人が「ぐるり」に顔を見せる機会が増えた。

人を求めて彷徨う「歌の旅人」に孤立感はない

大さんのシニアリポート イメージ    私のギター歴は50年にもなるが、完全な自己流でプロに付いたこともない。出版社で音楽雑誌の編集者をしていたころ、巻末の楽譜(当時流行っていたフォーク系)の校正を、少しギターが弾ける私が担当させられた。

 私のギターはクラシックギターでアコギ(アコースティックギター)ではない。自己流で通すことができたのには理由がある。当時、新宿3丁目にあった「漁火」というスナックでのこと。たまたま持参していたギターをめざとく見つけたママに、『禁じられた遊び』のリクエストをいただいた。「無理。伴奏ならOK」ということで、高齢の客のリクエストに応えて「懐かしの歌謡曲」の伴奏をした。これが受けた。

 当時私が弾けるコードはC/F/G7のメジャーコードと、Am/Dm/Eのマイナーコードの6種類のみ。キー(音程)の変化には、「カポタスト」という秘密兵器を使う。ギターのフレットにこれを差し挟むことでキーの上下が可能となる。あとは適当にリズムを刻めば事足りた。カラオケが出はじめたころで、「漁火」にはない。私のつたない伴奏でも大いに喜ばれた。

 「ぐるり」に「おやじアコギ」のメンバーが来ればギター伴奏で歌となる。その日を月曜日に限った。この日は社会福祉協議会(社協)のCSW(地域相談員)が来亭して、地域住民の困りごとなどの相談にのる「よろず相談所」の日である。相談したい住民が来亭すれば、別室に設けたテントで相談に応じるようにした。新来亭者である「アコギおやじ」は高齢独居者が多い。そのうちの1人、Hさん(74歳)もそうだ。彼の場合は、高齢者施設で「歌伴」(歌の伴奏)をしていたという積極的な人物である。こういう人は常につながりを求めて動き回り、地域で孤立することはまずない。

役職定年後に起きる自信喪失とセルフネグレクト

大さんのシニアリポート イメージ    一昨年、私が住む公営の高層集合住宅で4件の孤独死があったことはすでに報告した。4件とも独居者で、身内以外の友人はいない。集合住宅の特長は扉一枚での遮断が可能で、煩わしい人付き合いから逃れることができる。反面、地域住民との交流がない分、緊急時有効かつ安全に対応できる手段が少ない。孤独死した4人のなかには、50代の住民も含まれていた。

 「『役職定年』の50代を襲う孤独」(週刊『東洋経済』22年11月26日号)で、人事ジャーナリストの溝上憲文氏が興味深い記事を紹介している。「実はコロナ禍で急速に進んだデジタル化が中高年社員を不安に陥れている」という。上場企業の建設関連会社で最近、50代の管理職層の異動希望が増えているという。「ITスキルの進化に追いついていけず、仕事が合わない」「若手に教えを請うこともできるが、プライドもあり恥ずかしくて聞きづらいのか、1人で抱え込んでいる」(人事部長談)というのだ。

 「その50代を襲う一大イベントが役職定年だ。目的は組織の新陳代謝を図ることと人件費削減の2つ。役職定年制を導入している企業は53%。導入予定を含めると60%」に上がるという。役職定年になると年収も2~3割も下がる。とくに「課長、部長とマネジメント一本でやってきた人はあまり専門スキルがない。定型業務は今では派遣やアウトソーシングが担い、グループ内の出向・転籍ポストも少なくなっており、与える仕事が少ない」(前出人事部長)。

 管理職だった人が一兵卒として働くショックも大きい。「モチベーションの低下」「諦め」「寂しい・孤独」「喪失感」を覚えている人が少なくない。その転籍先企業も高齢社員を抱え、受け入れポストも少なくなっている。

 今さら専門知識を得ようとしても困難を極めるだけだ。こういう人のなかには、心の病に侵される人も少なくない。家族に見放され、自分の居場所を失ってしまった人のなかには社会や地域から孤立し、セルフネグレクト化する。それが孤独死や自死につながる。

(つづく)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

(第118回・4)
(第119回・後)

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