2024年12月22日( 日 )

【企業研究】崖っぷちの楽天は解体へ追いやられるか(前)

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楽天グループ(株)

 楽天市場を中核としたEC流通を、ポイント還元による顧客囲い込みで多角的なBtoCサービスへ成長させた楽天が、2020年に本格参入したモバイル事業で崖っぷちに追い込まれている。楽天を食いつぶすモバイル事業の内実と、あおりを食った優良事業ならびに青天井の債務がのしかかる楽天の行方を、前後編2回に分けてお届けする。前編では戦略なきモバイル事業の実態を明らかにする。

膨らみ続けた最終損失 連結3,728億円の赤字

 楽天が揺れに揺れている。2月14日に発表されたグループ連結の通期業績で、2022年度(12月期)の売上高は1兆9,278億円、前年比14.6%増で過去最高を更新したものの、営業費用も2兆2,541億円に上り、その結果、営業損益は3,638億9,200万円の赤字、最終損益は3,728億8,400万円の赤字となった。【表1】で最終損益の推移を見ると、18年は前年比28.6%増の1,422億8,200万円で過去最高益であったが、一転して19年は318億8,800万円の赤字、その後、赤字幅は年々拡大している。原因は20年に本格参入したモバイル事業だ。

 楽天はグループ事業を3つのセグメントに分ける。ECの楽天市場を中心とするインターネットサービス、金融部門のフィンテック、携帯電話事業を中心とするモバイルである。インターネットサービス事業は順調に拡大し、国内EC流通総額は21年に5兆円を突破、売上収益も22年についに1兆円を超えた。利益で堅調な成長を示しているのはフィンテックで、売上、営業利益ともにほぼ毎年、前年比増を達成している(フィンテックについては後編で扱う)。この2つを合わせると、営業利益(Non-GAAP)は2,000億円まで手が届きそうだが、その黒字幅を超えていたのがモバイル事業の赤字幅で、22年のモバイル事業の営業損益は4,928億2,900万円の赤字である。

モバイル参入の茨道 プラチナバンド抜きの価格競争

楽天グループ    なぜ三木谷社長はモバイル事業に参入したのか。その考察は本稿の範囲を超えるが、経済的な採算性に理由を探ることは難しい。過去にソフトバンクが参入したときは、通信基地局を自社でもつ既存事業者を買収するかたちであった。しかし楽天が買収したのはMVNO(他社の通信インフラを借りる)事業者のみで、自社で通信インフラをもつMNO事業に参入するには一から自前でインフラ建設を行わなくてはならない。

 14年にMVNO事業を開始していた楽天は、17年、MNO事業への参入を表明、18年に総務省から電波周波数1.7GHz帯の割り当てを受けて自社インフラ建設に着手した。しかし、このとき楽天がサービスの全国展開に必要な設備投資額として表明したのは、25年までに総額で6,000億円にすぎなかった。楽天は最新技術を使用することで設備投資も運営費も格段に安くできると説明したものの、NTTドコモが設備投資に年間5,000億円以上かけているのに対して、あまりにも少ない計画であり、その見込みを疑問視する声が相次いだ。

 楽天は20年4月に本格サービスを開始。基本料金3,278円(税込)で「通信量無制限」(楽天回線エリアのみ)という格安プランを打ち出した。しかし、21年3月に既存3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、以下同じ)がそろって格安ブランドを開始した。危機感をもった楽天は4月に「通信量1GBまで0円」を開始する。

 楽天の通信量無制限プランに「楽天回線エリアのみ」という条件が付いているのは、基地局建設が追い付かず楽天の電波が届かないエリアを、KDDI回線のローミングサービスで補っているためだ。利用者からは、屋内での通信の弱さや、パートナー回線(KDDI)への切り替えがうまくいかないといった、通信の質に対する指摘が相次いだ。その問題を解決するために楽天が主張したのが、「プラチナバンド」と呼ばれる周波数帯の割り当てである。プラチナバンドとは700MHz~900MHz帯の周波数帯域で、電波が減衰せずに建物内に届いたり障害物を回り込んだりする力が強いため、安定した通信の提供と効率的な基地局の配置に欠かせない。だがプラチナバンドはすでに既存3社に割り当てられ帯域に空きがないため、楽天は自社も含めた4社への再割り当てを強く要望していた。22年11月、総務省は楽天の要望に応えてプラチナバンドの再割り当てを認めた。楽天は24年3月にプラチナバンドによるサービス開始を予定している。

楽天モバイルの業績 そもそも戦略はあったのか

 モバイル事業を担う楽天モバイル㈱の業績を【表2】で見る。本格サービスが始まる直前の20年Q1(Qは四半期の意、以下同じ)から322億円超の営業赤字だが、その後、売上収益と営業費用の差は拡大し、21年Q3以降、6四半期連続で1,000億円超の赤字となった。拡大する営業費用の内訳を詳述すると、20%強は後述するショップ出店費を含む販管費、20%弱はデバイス費用などを含む原価、残り60%強はネットワーク費用である。ネットワーク費用には減価償却費とKDDI回線のローミング費用などが含まれる。ローミング費用の詳細は開示されていないが、KDDIの資料によれば、KDDIのローミング収益は、コロナ禍によって海外のローミング利用が落ち込んだ20年初めを底として、その後、楽天のMNO契約者数と比例して増加している。このことから、多くは楽天が支払ったローミング費と推測される。その額から推定するに、楽天が支払ったローミング費用は、20年は300億円、21、22年は年間1,000億円近くに上ると見られる。また、【表3】に見る設備投資実績も膨大だ。先述の通り、楽天は当初、25年までに設備投資を全体で6,000億円と発表していたが、実際にはモバイル事業の設備投資実績は累計で1兆4,500億円(【表3】から抜けた19年分も含む)に上る。

 では、営業実績となるMNO契約回線数はどうなったのか。【表3】を見ると、最も増加数が多いのは20年Q4から21年Q1の123万件で、その後、伸び悩んでいる。21年3月に既存3社が格安ブランドを開始した影響とみられる。対抗策として楽天は「1GBまで0円」と、ショップの急展開を始めた。21年3月に楽天は日本郵政との業務提携を発表し、郵便局内への楽天モバイルショップの出店を進めた。21年Q4からショップ数が急増していることがわかる。22年Q4時1,200店のうち280店ほどが郵便局内店舗である。だが、契約回線数はあまり伸びていない。店舗数が21年Q1比で最大2倍以上(22年Q3)になったのに対して、契約数は最大の22年Q1時でも21年Q1比で1.72倍だ。この後契約数の減少が続くが、原因は22年5月に「1GBまで0円」の廃止を発表したためだ。その後、徐々に契約数は減少し、最終的に450万件を割った。楽天は21年段階では契約獲得見込みを、22年末までに600万件、25年に1,500万件としていたのである。

 確実に積み上がる費用と設備投資に対して、収益化に向けた手はあまりにも場当たり的だ。設備投資も契約獲得見込みも、これだけ見込みが外れては、参入時にそもそもどの程度の戦略で臨んでいたのかと疑わざるを得ない。そして、この後の戦略についてもだ。

黒字化は可能か ARPU×契約数

 2月14日の22年12月期決算会見で三木谷社長は、赤字への対策として月150億円(年間1,800億円)の費用圧縮目標を示すとともに、23年中に楽天モバイルを単月黒字化するとした。費用圧縮の主な方法として、自社回線エリア拡大によるKDDI回線のローミング費用の縮小、基地局建設にメドがついたことによる人件費や外注費の圧縮、ショップのうち200店舗を23年4月末までに閉店するなどとした。楽天モバイルの月間赤字は、22年の平均で約380億円。月間150億円赤字を圧縮するとしても、単月黒字化するにはあと230億円の営業利益を毎月増収せねばならない。

 増収の柱となるのは、契約数とARPU(1ユーザーあたりの1月平均収益)の拡大である。月間サービス売上はARPU×契約数で概算される。【表3】の通り、楽天は「1Gまで0円」プランを打ち出していた22年Q1までARPUは極めて低かった。しかし、22年Q2のプラン廃止宣言後、ARPUは大幅に上昇している。

 月230億円増益を、最新ARPU(1,805円)で試算すると、契約数+1,274万件にあたる(便宜的にコスト増加を考えない)。22年12月期末に449万件の契約があるので、23年11月末までに契約数が1,723万件を超えれば、23年12月はモバイル事業が単月黒字になるのだが、これは厳しい。

 もっと現実的にグループ全体での通期黒字を目標として、連結赤字約3,700億円から赤字1,800億円を圧縮して残り1,900億円をモバイル事業の増収で賄う場合を考える。ところで、楽天モバイルがグループ全体に与える増収効果について、楽天は次のように説明する。楽天モバイルの契約者は楽天の他サービスをより多く利用する傾向にあり、契約者1人あたりが楽天グループ全体に貢献する売上増分(アップリフト)は705円であるという。このARPU+アップリフト=2,510円で試算すると、年間で1,900億円増益するには、契約数+630万件ということになる。23年末までに契約数が1,079万件に達すれば、来期からはグループとして通期黒字の軌道に乗る算段だが、これも過去3年の契約が449万件という実績と、「1GBまで0円」廃止以降、契約数を増加に転じる決め手が見えていない現状からして容易ではない。最善のシナリオは、来年3月のプラチナバンド開始以降に急速に契約数を伸ばして、来期に何とかグループ黒字化できるかどうかというところではないだろうか。三木谷社長は、これまで年間2万局のペースで進めた4G基地局開設について、今期目標を8,000局としたが、プラチナバンド分の設備投資が別途必要である。よって今期も来期黒字化のため、巨額な設備投資に耐える体力勝負の年となる。

マーケティング戦略も出口戦略も?

某量販店に掲げられたプラン比較パネル。
楽天も無制限プランがあるにもかかわらず
「20GB~/月」という特別な書き方になっている。
楽天回線使用時に限るなどの実質制限があるためか

 楽天モバイルは、既存3社の値下げによって格安携帯としての訴求力を失い、安定した通信を求める大多数ユーザーの要求も満たすことができない。現状として売りになるのは「通信量無制限」(楽天回線エリアのみ)で3,278円というプランだ(既存3社は7,000円台)。ヘビーユーザーにとって楽天モバイルは有力な選択肢になる。それは楽天の決算資料にも表れており、既存3社の1ユーザーあたり平均月間データ使用量が9.3GBであるのに対して、楽天は「1GBまで0円」廃止以前は11.8GBだったが、廃止直後から上昇して22年末に18.4GBとなり、ヘビーユーザー層が拡大している。だがヘビーユーザーに頼った契約数確保は、契約数が増えれば通信量を圧迫するため、早晩プラン変更が迫られることになる。当面ヘビーユーザーで契約数を稼いでも、プラチナバンド開始後は通常ユーザー取り込みへ転換が必要だ。度重なるプラン変更をブランドの向上につなげるマーケティング戦略が楽天にあるのだろうか。

 あるいは、モバイル事業をあきらめて事業撤退する道もあるが、楽天は参入時に総務省から、「既存の移動通信事業者へ事業譲渡等をした場合は、開設計画期間中であっても認定を取り消す」との条件を付されており、出口戦略にも制限がかかっている。いずれにしてもモバイル事業は、すでに楽天全体を巻き込んでグループ全体の命運を握る事態になっている。後編では、モバイル事業のあおりを食ったフィンテックと膨大な資金調達について詳説し、楽天の行方を考察する。

【寺村朋輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:三木谷浩史
所在地:東京都世田谷区玉川1-14-1
設 立:1997年2月
資本金:2,940億6,100万円
売上高:(22/12連結)1兆9,278億7,800万円

(後)

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