2024年12月22日( 日 )

書店が抱える問題とは?(前)

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大さんのシニアリポート第122回

 2年ぶりに新刊を上梓した。『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)である。いつものように、運営する「サロン幸福亭ぐるり」の広報誌「ぐるりのこと」に載せ、地域にポスティングした。するとふたりから連絡をいただいた。それが、「この本どこで売っているんですか」というあり得ない質問。「書店でお求めください」と答えると、「近くに書店がない」という。近所に書店がない。最寄り駅の構内にあった書店も数年前に閉めた。その高齢者はネットで求める術を知らない。仕方なく手元にある一冊を持参し、お買い求めいただいた。

書店がどんどん減っていく

 全国的に書店の空白地帯が増えている。書店や取次、出版業者らでつくる出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によると、書店が1つもない「書店ゼロ」の市町村が、全国で26.2%。5年前の調査(大手取次・トーハン調べ)22.2%より4ポイントも増えている。全国1,741市区町村のうち、書店がないのは実に456市町村。都道府県別では沖縄県が56.1%と最も高く、次いで長野県の51.9%、奈良県の51.3%と続く。一方広島県、香川県の両県には全市町村に書店があった。

 市区町村ごとでは、書店が1店もない市は792市のうち17市(2%)だったのに対し、町は743町のうち277町(37%)、村は183村のうち実に162村(89%)と驚くべき数字。全国の書店数は1万1,952店(21年度)。10年前から約3割減少している(業界団体・日本出版インフラセンター調査)。東京でいえば、東京駅八重洲ブックセンターが3月末で44年の歴史に幕を下ろしたというニュースが象徴的だ。書店減の原因は、人口減少、ネットで購入する人の増加などがあげられる。当然コロナ禍での外出禁止もあるだろう。売れ筋のコミックまでが電子書籍に移行していることも大きい。

 出版科学研究所によると、昨年の紙の出版物の推定販売金額は1兆1,292億円と、ピーク時(1990年代)の4割。一方、電子出版市場は拡大し、昨年は5,013億円と出版市場全体の3割を超えた。また、日本出版販売(日販)の「出版物販売額の実態」によると、ネット経由の出版販売額は直近10年で6%から19.4%に伸びている。

自民党一党で解決できる問題ではない

    この窮状に対して、日本書店商業組合連合会の加盟店など書店業界が、自民党の「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」に支援策を要望したという。議連は昨年12月、中間報告をまとめている。

 まずネット販売の規制を求めた。書籍は定価販売の根拠となる「再販制度」があり基本値引き販売ができない。アマゾンなどのネット書店では、送料無料やポイント還元などで実質的な値引きが行われている。これに一定程度の制限やルールを設ける。

 また、全国の公立図書館で、同じ本を過剰に入れないようにルールを設けること。出版物への軽減税率の適用、クーポンの配布、書店の新規出店への支援などを盛り込み、今春に最終報告を出す予定だという。

 3月30日放送のラジオ、「森本毅郎スタンバイ」で、経済ジャーナリストの渋谷和宏氏が、「アマゾンなどのネット販売に規制を掛けて購入を不便にすることは逆効果。自民党一党に検討を委ねることに問題がある。出版と政治との関わりには、一定の距離を置くべき」と指摘する。

 専修大学・植村八潮教授(出版学)によると、「太平洋戦争時に、政府による言論統制や出版弾圧を受けた出版業界は、戦後、政治とは一定の距離を置いてきた。子どもの読書活動の推進に関する法律や読書バリアフリー法などが議員立法で成立した際は、いずれも超党派の議連での論議を経ていた。だが、今回は業界側が自民党単独の議連に要望。『書店が毎日のようになくなっている。超党派で議論していては間に合わない』(担当者)というのが理由だという」。さらに、「特定の政党に支援を依頼すれば、見返りを求められ、自分たちの価値観を広める場として使われることもあり得る」と危惧を呈する。

 ライターの永江朗氏は、書店が減った背景には業界内部の問題もあるとして、「2000年に大型小売店の出店を規制する大規模小売店舗法が廃止されて超大型店ができ、客が流れた。さらに、取次が大型店に優先的に売れる本を配本することがあり、中小書店に不利な競争を強いてきた。品ぞろえや配送の早さなどで、リアル書店がニーズに応えられないままネット販売を規制すれば、読者が不便になり、逆に本離れが進む可能性もある。文化を守るならば、図書館などさまざまな場所の支援をすべきだ」と話す。

 公共図書館や学校図書館への納入に関して、指定管理者として運営する東京の大手企業が図書納入も手がける。これまで納入してきた地域の中小書店がシェアを奪われてきたことも地方の書店減の一因になっていると、田口幹人(元書店員、未来読書研究所共同代表)氏は指摘する。

(つづく)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

(第121回・前)
(第122回・後)

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