2024年12月22日( 日 )

書店が抱える問題とは?(後)

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大さんのシニアリポート第122回

 2年ぶりに新刊を上梓した。『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)である。いつものように、運営する「サロン幸福亭ぐるり」の広報誌「ぐるりのこと」に載せ、地域にポスティングした。するとふたりから連絡をいただいた。それが、「この本どこで売っているんですか」というあり得ない質問。「書店でお求めください」と答えると、「近くに書店がない」という。近所に書店がない。最寄り駅の構内にあった書店も数年前に閉めた。その高齢者はネットで求める術を知らない。仕方なく手元にある一冊を持参し、お買い求めいただいた。

大型書店は自分で自分の首を絞めている

 ジュンク堂書店で店長などを四半世紀勤めた名物書店員・福嶋聡氏は、朝日新聞(23年5月10日)で、大型店の相次ぐ閉店の理由を

「一言でいえば『スマート化』です。POCデータ(販売記録)で前日の売上が一目瞭然になり、売れ筋の本がよりはっきりし、1990年代ごろから本屋が金太郎アメ化していきました」
「売り上げデータだけに縛られていたら、最大公約数的な本しか見えません。書店、とくに多くの本を置ける大型書店は、社会の変革器であるべきです。売り上げデータだけに頼っていたら、今ある社会の欲望や格差の増幅器にしかなりえません」

 と指摘し、目先の売り上げだけ考えたら、店によっては参考書とコミックばかり置いておくことになる。売れ行きのいい本は大型店でなくても置いている。結果的に自分で自分の首を絞めることになる。さらに、読者が求める多様性を放置すると、社会全体が自分で考えるということを放棄し、ついには、
「面倒な社会や政治のことはAIに任せてしまったほうがラク、という風になっていくのかもしれません」
 と説く。

 前出の渋谷和宏氏は、
「取次を通さず、店主が直接版元などから仕入れる『セレクト型、独立系の本屋』が増えている。店内にカフェや日用雑貨を販売するコーナーを併設し、書店員と客、客同士の情報交換的な役割を担う新しい場を提供する。これはアメリカやイギリスなどでは盛んだ。その信頼する書店員が勧める本を購入する」
 という。これに関しては、後日改めて紹介したい。

サロン幸福亭ぐるり イメージ    先日、某大手出版社に企画を持ち込んだときの話。かつて私の担当編集者だったIは、

「売れ筋に絞って出版することに社の方針が変わったんです。売れている作家をいかにして取り込むか(執筆していただくか)、他社も同様のことを考えているはずです。出版不況を生き残るためには、なりふり構っていられないんです」

 というにべもない返答だった。つまり暗に「あなたは売れている作家ではない」と言われたことになる。「売れない作家」という意味では納得しているつもりなのだが…。

 「売れるジャンル、売れる作家」というデータ主義的、目先的な販売方法を展開していけば、書店業界は自ずと先細りになるだろう。限られたジャンルの新刊本のみの市場になると、古書店の先行きのも大きな影響を与えることも考えられる。そのことは、単に書店の減少にとどまらず日本の活字文化、ひいては日本文化そのものへ悪影響をおよぼす。

 「ネット販売を規制する」と自民党はいうが、どうやって規制するつもりなのか。その場凌ぎの書店復活再生案になることは間違いない。現実的にはネット購入という流れに竿を差すことは不可能だ。当分は、「大中小のリアル書店」(「セレクト型、独立系の本屋」含む)と、「ネット販売」という二極化は避けられない。将来、間違いなく「本という概念」そのものが変わってくる。

※朝日新聞(23年4月3日)「書店空白地帯 広がる」を参考にしました。

(了)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

(第122回・前)

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