2024年11月05日( 火 )

居場所って、いろいろあります(前)

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大さんのシニアリポート第123回

 運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)をオープンして8月で16年目に入る。2004年夏、私が住む公営住宅内でふたりの孤独死者が出た。当該自治会はこの問題に無関心を示した。08年、『団地が死んでいく』(平凡社新書)上梓を機に団地集会所に高齢者の居場所「幸福亭」(後に改名)を独自に立ち上げた。モットーは当然「孤独死者を出さない」である。

社協とのコラボで運営に大きく影響

サロン幸福亭ぐるり    千葉県松戸市にある常盤平団地の「いきいきサロン」の運営方式を模し、名前は多摩ニュータウンの「福祉亭」を参考にした。その場に集うことで顔見知りが増え、日常生活に役立つ情報を交換。心身ともに癒やされ励まされることで「見守り」につながり、結果として「孤独死回避策」にもなると考えたからだ。

 「幸福亭」という存在を周知徹底させるために、広報誌・季刊『結通信』(後に『ぐるりのこと』と改名)を発行、配布。加えて、「幸福亭」主催のイベントを毎月開いた。イベント告知に際し、高齢住民120人(世帯)に毎回手紙を書き配布した。おかげで回を追うごとに参加人数が増え、常時40人ほどの来亭者で賑わった。

 13年末に隣接するURの空き店舗に移転。本格的なカラオケ導入や、「ぽかぽか広場(子ども食堂)」「映画鑑賞会」「IT茶話会」(インターネットの情報を基に、認知症予防の「回想法」を実施)「マッスル倶楽部」(オモリを手足に負荷して筋肉の増強を図る体操)などを主催した。

 とくに、社会福祉協議会(社協)とのコラボによる「よろず相談所」(生活全般に関する相談。必要な窓口につなぐ)開設は、「ぐるり」にとって画期的な事業だった。社協のコミュニティ・ソーシャルワーカーが毎週月曜日「ぐるり」に常駐して数多くの問題に具体的に対応し解決したことで、これまで見えなかった地域の現状が可視化され、その後の運営の展開に大きく寄与した。

 この体験を基に、『親を棄てる子どもたち 新しい「姨捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)を上梓することができた。これは間違いなく社協とのコラボによる成果だと確信している。残念なことに、今年4月から明確な理由を明かされないまま突然閉鎖された。地域とのつながりを重視してきた社協の姿勢に大きな変化が生じたのだろう。

 閉鎖されたことで相談者は皆無。地域の諸問題が顕在化されたのに、8年前の潜在化に逆戻り状態。これまで培ってきた地域住民との絆を再構築することは容易ではない。切り捨てられた感はぬぐいきれない。

地域の居場所という意味が
希薄になるということは

サロン幸福亭ぐるり    オープンして15年。「ぐるり」が本当に地域の居場所として機能しているのか、という疑問をもつことが多くなった。社協との決別という状況の変化が最も大きいと思う一方で、利用する高齢者の意識の変化、とくに「『ぐるり』がいつもある」という常態化は、確実に新鮮みを喪失させたことは容易に想像できる。

 「ぐるり」で出会った人たちが一緒に行動すると、気心の知れた同士で他に居場所をもつことになる。「ぐるり」のサテライトといった位置づけと考えた。これは発足時の目標の1つでもあった。

 コロナ禍が「ぐるり」の運営状況を悪化させた。「ぐるり」という居場所は、私がURの空き店舗を借りて個人的に運営している。モノを販売し、利益を上げようとしているわけではないから、「店」ではない。個人が住んでいるわけではないから「住宅」でもない。

 かつて消防署が査察に入ったとき、「店でも住居でもない。集会所でもない。ましてや会社組織でもない『ぐるり』」の業態分類(分類により防火・防災の在り方が変わる)について検討を重ねたものの、結局「分類先ナシ」で曖昧にされたままとされた。一応「準公的な空間」という区分けで、飲食店などと同じように数カ月閉亭を余儀なくされたこともあった。

 閉亭する時期が長くなりすぎたため、規制を受けないサテライトは元気なのだが、肝心の「ぐるり」が住民にとって希薄な存在となってしまった。運営費は公的な機関からの支援や貸し室料、来亭者のカンパ、個人的な支援者からの寄付、それに入亭料で賄われている。

 当然不足分は亭主である私の持ち出しとなる。利用者数の激減は亭主のフトコロを直撃した。「ぐるり」という地域密着型の居場所の存在が希薄になるということは何を意味するのだろうか。

(つづく)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

(第122回・後)
(第123回・後)

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