2024年11月22日( 金 )

『脊振の自然に魅せられて』「ナツエビネと山カフェ」(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 撮影を終え、すぐ横の渓谷に移動し昼食を取ることにした。広い渓谷で座れる場所を探す。ついてきた2人とも花崗岩の石を飛びこえるのに不安はなかった。休憩場所の50m上部は大規模な土砂崩れで渓谷を塞いでいた。毎年、春や夏に藪漕ぎをして脊振山直下の自衛隊道路まで登っていたのだが、今回は無理をせず、花の観賞のみにした。

7月の豪雨で大規模な渓谷となった場所で(筆者) 50m奥は崩落していた
7月の豪雨で大規模な渓谷となった場所で(筆者)
50m奥は崩落していた

    それぞれ適当な石に腰を下ろして昼食をとった。女性とともに食事すると、いろいろな菓子や果物を振舞ってくれるのでありがたい。Sは昨日が誕生日だったとのこと。「おめでとう」は言ったが、バースデイソングは歌わなかった。いま思えば、歌ってあげるべきだったと後悔している。

 食事を終え、戻ることにした。渓谷の上部から見下ろすと、花崗岩の白い大きな岩がゴロゴロと扇状に大規模に広がっていた。どこまで、この岩だらけの渓谷が続いているのか、降りてみたい衝動に駆られた。この冒険は仲間を誘い、少し涼しくなってやろうと思っている。

 渓谷から歩いてきた藪漕ぎ道へ戻ろうとしたが、わずかにルートがずれて本当の藪漕ぎになってしまった。登ってきた道をルートがずれていないか地図アプリで確認する。ルートは外れていない。ヤブを漕いで2m上部に進み、歩いてきた道に戻ることができた。彼女たちも平気でついてきた。

 林道の土砂崩れの確認を含め、ほとんど使われていない林道を歩いて下山することにした。2人に帰宅時間を聞くと「大丈夫」と言ってきた。登ってきた道より20分ほど余計に歩くことになる。

 うるさい程の蝉の鳴き声が、日照りの林道を歩く我々に降り注いだ。ヒグラシのカナカナの鳴き声は涼しく山にこだまするが、ニイニイゼミは暑苦しい。

 ゆるく下った林道の左右は植林された杉林である。9月はアケボノソウの可愛い花が一部分の林道を飾ってくれる。楽しい道でもある。今日はダイコンソウやキカラスウリの緑色の実を見る程度だった。キカラスウリは、秋には実が熟し黄色になる。テン花粉の材料でもある。

 30分も歩くと大規模な土砂崩れで道が崩落していた。土砂の上を歩いて抜けられそうだ。沢登りにも連れていったSに、土砂崩れの規模が分からないので歩いてくれと頼みスマホで撮影した。

▼大規模な土砂崩れをよじ登る女性S 右側は道がなくなっていた
大規模な土砂崩れをよじ登る女性S
右側は道がなくなっていた

 ここから林道の出口まで15分。ゲートのある林道の出口(時には入り口)に着いた。林道を出ると椎原峠への登山道に合流する。ここに道標と登山案内図を15年前に設置している。登山案内図を確認する。ここの案内図を含め5カ所を、イラスト登山案内図にリニューアル計画中で、秋には設置を終える予定である。手彫りの登山案内図は思い出深いが、時代にあった登山案内図にすることにした。今年2月、福岡平成ロータリークラブに相談し理事会で費用援助の稟議が降りた。ここまで椎原バス停から作業車が入るか、確かめる目的もあった。登山地図アプリを確認すると、ここから船石橋までの林道が崩落との情報もあった。下りの林道を歩いてみると、土砂で泥濘しているが、何とか作業車は通れると判明した。

 登山口の船石橋から、朝歩いた杉林のなかの林道を下った。5分ほど歩くと右手に古い山小屋がある。持ち主に頼まれ脊振の自然を愛する会で1年ほど管理したことがあるが、持ち主はHに譲渡している。山小屋の主人Hは自宅から毎日、通ってくる。時折、奥さんも見かける。

 主人は居るかな、門は開いている。香取線香に匂いがしたので居ると確信した。中庭に入り、声をかけた。部屋からHが出てきた。「コーヒー飲まして」。7月にきたとき、ご馳走してもらったので気軽にお願いした。Hは早々にコーヒーの準備をしてくれた。我々のため、椅子を3脚出し、いつもは覆われているブルーシートを剥がすと円形テーブルが出てきた。筆者は家内から分けて貰ったコーヒー豆の真空パックを2袋預けた。いつでもコーヒーを飲ませて欲しいとの思いからである。この日、同行した女性2人はすっかり感動していた。主人は手早く4人分をドリップした。「紙コップはあります」とS。山小屋に訪れた人用のメッセージノートに2人がそれぞれ書き込んでいた。人気のテレビ番組「ポツンと1軒家」状態である。

▼『山カフェ』 コーヒーを振る舞う山小屋の主人Hと同行の2人
『山カフェ』
コーヒーを振る舞う山小屋の主人Hと同行の2人

 夏のホットコーヒーは疲れた体を癒してくれた。素敵な山カフェでもあった。主人Hも女性2人に囲まれて嬉しそうであった。大学の後輩であるHは寡黙であるが、すでに私とは親近感のある友人となっていた。ピアノもなかに運び入れている。いつか演奏を聴きたいものである。

 コーヒーを飲み終え、小屋の隅にある植物は何かと Hが尋ねてきた。希少植物のオニコナスビの蔓が僅かに生えていた、来年は花を咲かせるかもしれない。キランソウ、朽ちた木の上はセッコクと教えた。本ワサビも植えたが栽培が難しいと言っていた。帰り際、「これは木の酒樽よ」と女性2人に教えた、主人が中を開けると物置となっていた。桶の蓋は、先ほどコーヒーをご馳走になった円形テーブルに使っていた。

 車を止めた場所に戻った。 Sが冷えたドリンクをプレゼントしくれた。キャップを開け、疲れた体に一気に流し込んだ。元気な気分になった、ありがたいものである。筆者は、ここからさらにほかの林道の土砂崩れを確認に行くため2人と別れた。

 広域林道は離れた場所2カ所が土砂崩れし車は通行できない状態だった。2カ所の登山案内図は林道を歩いて設置するしかない。看板業者に材料の荷上げは仲間と手伝いますからと連絡をした。

 ナツエビネと山カフェが、夏の山日記の1ページを飾った。

(了)

脊振の自然を愛する会
代表 池田友行

(前)

関連キーワード

関連記事