『脊振の自然に魅せられて』「ショウジョウバカマと落とし物」(前)
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脊振山系では3月半ばごろからショウジョウバカマ(猩々袴 ユリ科)。が咲き始める。猩々(しょうじょう)とは能楽などに登場する伝説上の動物で、オランウータンをイメージしてもらうとわかりやすい。名前に袴が入っているのは幾重にも伸びた葉が袴に似ているからだと植物図鑑に記載されている。
ショウジョウバカマは冬が終わり、春の兆しが感じられる2月下旬から3月初めごろに発芽を始める。ショウジョウバカマは地面から頭を出し、寒さをこらえ太陽の陽を浴びて気温が上がるのを待ち、開花の準備をする。ちなみにショウジョウバカマは葉を幾重にも付けているので遠目からでもすぐに分かる。
脊振山系では、登山道のそばや山深い谷など、様々な場所でショウジョウバカマの姿を目にすることができる。とくに杉や檜の林のなかで共生し、群生している姿は見事というしかない。野球場程の広さの場所に足の踏み場もなく咲いていることもある。
山の雑誌に掲載された福岡県糸島市と佐賀県の境の羽金山一帯は有名になり、春には多くの登山愛好家が花を愛でに、この山にやって来る。咲き終えると、花は茶色に変色し、子孫繁栄のため、タネを遠くに飛ばそうとする。
3月半ば、谷に咲くショウジョウバカマに会いに行くため、福岡県糸島市の水無鍾乳洞の登山口に向かった。少し肌寒い日ではあったが、1年ぶりにショウジョウバカマに出会えることに心が躍っていた。20年前は春に訪れる人は少なかったが、春の山野草がみられる場所だということがSNSで有名となり、平日にも関わらず多くの人が訪れるようになった。
井原山~三瀬峠の縦走路から谷に入る。谷を下ること5分、斜面に広がる群生地にたどり着く。ショウジョウバカマは谷から吹き上げる冷たい風に吹かれながら花を咲かせていた。まだ7分咲きだったが、多くのショウジョウバカマに会えて嬉しかった。
この場所は急斜面なので、ザックを置く場所や、撮影ポイントの選定を慎重に行い、花たちを踏まないよう足元に気をつけながら、かたちの良い花を探す。主役と脇役の選定も重要だ。主役をメインに、引き立て役の花たちをバックにする。数年前まではマクロレンズを使って懸命に撮影していたが、加齢とともに目が悪くなり、最近はデジタルカメラのファインダーを見ながらカメラ任せの撮影をしている。撮影終了後、持参した保温ポットからカップに入れたインスタントコーヒーに湯を注ぎ、一息ついた。
この谷を下ると先ほど登ってきた登山道に合流する。ストックを頼りに足場の悪い急斜面のガレ場を下る。筆者は沢登りや藪漕ぎで歩き方が体に馴染んでいるため、危険とは感じないが、それでも転倒しないように慎重に下った。すると急斜面の尾根にショウジョウバカマの大家族が私を待っていた。「こんな斜面にも咲いているのか」。日当たりも悪く、谷から噴き上げる風を受ける場所のため、先ほど撮影した花たちの1週間後に開花すると予想した。さらに下って行くと岩の上や別の斜面にも群生を見ることができた。
あと5歳若ければ再度撮影に行ったかもしれないが、筆者は今年の3月で80歳を迎えたばかりであるため、その光景を目に焼き付けておくことにした。15分で登山道に合流、沢ぞいの道を下って車に戻った。そこで偶然にも写真好きの知人女性(写真の弟子?)に遭遇した。今から撮影に行くらしい。
(つづく)
脊振の自然を愛する会
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