凄味ある経営者(4)経営の王道をゆく 有言実行で海外進出に着手

Ambitious Asia(株)
ゼオライト(株)

 人口減少による国内市場の縮小を前に、住宅と水処理の2分野で海外進出を決断した経営者たちがいる。Ambitious Asia(株)の中島久雄代表とゼオライト(株)の嶋村謙志代表だ。中島氏はフィリピンで住宅開発事業を展開し、現地の一次取得者層に向けた日本品質の住宅供給を加速させる。嶋村氏はベトナムを拠点に、水の再利用分野に特化した事業モデルを構築中だ。危機感を共有した2人の挑戦は、地方企業の新たな成長の方向性を示している。

住宅・水分野の
危機感が共鳴した夜

 「もう日本だけでビジネスを展開していても将来性はない」と危機感を共有したのは、Ambitious Asia(株)の中島久雄代表とゼオライト(株)の嶋村謙志代表の2人である。

 今年3月のある日、会食した際にこの認識に至った。中島氏は「大手ハウスメーカーの積水ハウス(株)や大和ハウス工業(株)などはアメリカ進出をはたし、日本での着工件数を上回る受注実績を挙げている。その一方で、人口激減の日本では住宅産業の未来はない」と喝破する。同様に嶋村氏も「水供給に関して再生事業は期待できるが、新規需要は見込めない。会社を飛躍させるには海外進出しかない」と断言した。

点検取材

 中島・嶋村両氏とは20年以上の付き合いがあるため、両氏の発想から行動に至るまでの見通しを読むことには自信があった。ただし、今回のテーマは「国際事業への挑戦」である。それゆえに正直なところ、大言壮語に終わってしまうのではという不安も、若干は抱いていたのも事実であった。

 そこで、会食から6カ月が過ぎた時点で現況の点検を行ってみた。結論からいえば、筆者の見立てどおり、2人ともたしかな経営手腕の持ち主であることを再確認したのである。改めて評価し直した。

本格的なデベへの挑戦

 中島氏の場合、フィリピン住宅市場に接して10年を超えるだけあってその実情に精通している。西日本鉄道(株)などが広大な土地を仕込む様子を目撃しながら、確信が次第に強まっていったという。「あと2年もすればフィリピンの人口は日本を追い抜く。生活水準が高まれば良質住宅の市場が広がるはずだ」との見立てを示す。

 まずは顔なじみの地元不動産企業と東京の企業に出資を仰ぎ、不動産の確保に成功。販売に乗り出し始めた。「さすがだ!」と感銘を受けた。「1年以内には必ず自社デベロッパーとして販売に着手したい」と、次のステップに向けた意欲を露わにしている。

ベトナムで拠点づくり

ゼオライト・嶋村謙志社長
ゼオライト・嶋村謙志社長

    嶋村氏は、計画どおりに準備を進めてきたことを淡々と語る。「まず直近の2期を市場調査=リサーチ期間と位置づけてきた」とのこと。要するに、国や行政が行う海外視察に積極的に参加してきたのだ。

 ①まず市場の実態をつかむ学習期間、②次に人脈形成を会得する期間―と定めて動いてきた。そして今期から翌々期にかけて、海外事業の実体づくりを行うことを社内で高らかに掲げている。

 市場視察を重ねるうちに、ターゲット市場が東南アジアであること、そして拠点をベトナムに定める必然性が明確になった。現在はベトナム人の採用を進めており、将来的には帰国後に幹部として育成する構想を描いている。この緻密な戦略を一歩一歩着実に詰めていく手法には驚かされる。

 経営者の皆さん、この2社の海外進出の手法には、大いに学ぶべき点があるのではないだろうか。

【児玉直】

挑戦を決断させた市場認識

Ambitious Asia

 中島氏がフィリピンへの進出を決断したのは、日本が人口減少により市場が頭打ちにあるからというより、それ以上に、若年層が多く人口が急増し、かつ経済成長著しいフィリピンの住宅市場が将来において非常に有望であると感じたことが大きい。戸建住宅を中心とした不動産の開発・販売を手がける九州八重洲(株)(西部ガス子会社)に在籍していた2010年代からフィリピンでの不動産事業に携わっており、プロジェクト推進のために現地法人を設立するよう西部ガスを説得し、17年6月に設立にこぎつけたほど、早くからフィリピンの有望性に目をつけていた。

 現地で戸建やタウンハウスの開発を手がけ、海外住宅事業は23年3月期に売上高が10億円を突破するなど、中島氏の期待どおり、事業は順調に成長した。現地で地域と良好な関係を築き、長く事業に携わりたいとの想いから、現地のある小学校校舎2棟を寄贈したほか、別の小学校にウェルカムゲートを寄贈し、通学路の舗装を行うなど、社会貢献にも努めた。中島氏は24年10月、フィリピンでの不動産事業に専念するため、独立を決意した。

ゼオライト

 嶋村氏も日本は人口減少により市場が大きく伸びる見込みは最早ないとの認識を強くもっている。この厳しい現状を打開するため、海外事業に取り組むことを決意する。コロナ禍以前から海外を視野に入れていたが、23年のコロナ収束後に改めて着手する。半世紀以上にわたり培ってきた卓越した水処理技術と、国内トップクラスの実績を武器に、同社は社会貢献の舞台を海外にも広げ、世界の水問題解決に挑む。

ゼオライトは国際展示会「ベトウォーター」(ベトナム・ホーチミン市)に出展。 左から2人目は嶋村社長
ゼオライトは国際展示会「ベトウォーター」
(ベトナム・ホーチミン市)に出展。
左から2人目は嶋村社長

    5年で事業の仕組みを構築すると決め、これまでの2年、ベトナムなどに何度も視察に赴いたほか、現地の展示会にも出展。福岡市の官民連携のプラットフォームである「福岡市国際ビジネス展開プラットフォーム」と会員企業とで、「ベトウォーター・WETV EXPO」に23年、24年に共同出展したほか、国際協力機構(JICA)や経済産業省などの支援の枠組みも活用している。現地でニーズを実感し、自社の技術に改めて自信を深めた。3年目の今年は事業の枠組みと組織づくりを本格的に行っている。

現地ニーズに特化
パートナーとの協働

Ambitious Asia

前列左から1人目がAmbitious Asia・中島久雄代表。 現地でパートナーらと
前列左から1人目が
Ambitious Asia・中島久雄代表。
現地でパートナーらと

    中島氏は前職時代からの長年にわたる活動のなかで、現地の財閥系企業を含む多くの知己を得ており、現在もそれらをパートナーとして活動している。現在の事業は、海外で不動産・住宅事業を行いたい日本の事業者をフィリピンに案内し、実際に施工などを行う現地企業をつなぐというもの。自身フィリピンに毎月10日程滞在し、土地の選定から造成工事や建築工事の管理、販売のアドバイスや管理、購入者への引き渡しなどを行っており、多岐にわたって日本とフィリピンの企業間の架け橋として活躍している。

 現在、マニラ首都圏近郊のバタンガス州リパ市において、大規模な住宅造成プロジェクト「エコベルデ リパ 第2期タウンハウス&デュプレックス」(計347戸)を進めている。リパ市はマニラ郊外の文教都市で、マニラからも通勤可能な位置にあり、同値の工場団地には日系企業も複数進出している。

中島代表が携わるリパ市のプロジェクト
中島代表が携わるリパ市のプロジェクト

    中島氏は、現地で初めて住宅を購入する一次取得者層に、手頃な価格で住み続けられる住宅を提供したいと考え、約700~1,000万円という価格帯に設定した。昨年11月に販売を開始したところ、今年8月末時点で347戸中261戸と3分の2以上の契約が完了している。建設は日本のRC住宅を工夫し採用しており、現地パートナーとの協業も順調で1戸60日のスピードで、引き渡しは月15戸と着実に進めている。

 海外では業種別に外資に対して出資規制が設けられていることが多く、注意が必要となる。フィリピンでは不動産事業の合弁事業に関して、フィリピン側が60%以上を保持し、外資は40%以下に抑えることが求められている。資金面を適切に関与し、現地側との協調体制を保つことも海外ならではの課題があるが、中島代表は日本側の出資額が40%を超えないよう30~35%に抑えるなど目配りをしている。このように、中島代表は日本側とフィリピン側の双方の強みを融合させつつ、現地事情に沿った対応を行っている。

ゼオライト

 嶋村氏は海外視察を通して現地にも優れた技術をもつ地場企業がおり、海外市場は「甘くない」「現地企業との安価な価格競争は回避すべき」と実感した。そして、多くのサービスをもっていくのではなく、同社の強みが活かせ、競合より優位に立てる分野であれば収益を上げられ、事業として継続していけるとの確信を得た。そこで、一般的な河川や地下水の浄化事業ではなく、同社の技術の優位性をより活かせる水の再利用分野に特化することを決めた。

 具体的なビジネスモデルは、工場から排出される排水をすべて回収・浄化し、再度使用可能なシステムを提供するというもの。主なターゲットの市場は水の再利用のニーズが高まっているアジアの新興国やグローバルサウス。とくに、地下水の汲み上げ規制が厳しくなっている国や、国際河川の水量減少が深刻化している国など、水不足の問題が顕在化している国を重点的に攻める。

 海外事業では国内と事業環境が異なることからさまざまな困難、リスクがある。たとえば現地企業からの販売料金の回収の難しさだ。同社は自社単独での展開は非現実的であると判断し、リスク分散のため、日系企業との戦略的連携を推進している。現地でも信用をもつ日系の大手商社、海外で実績豊富な福岡のメーカーと組むことを決めた。また、当面の顧客ターゲットは日系企業で、着実に実績を積み上げる方針である。

 料金滞納リスクを回避するため、設備売却にとどまらず、設備の稼働による再利用水の供給でも収益が得られるよう、継続ビジネスとして契約する仕組みを考えている。これなら、万が一料金の不払いが発生したときには水を即止めることができ、継続的な回収を確実なものにできると考えている。

海外での拠点構築と挑戦

Ambitious Asia

 中島氏は約1年前に独立したばかりで、出張ベースで事業を進めているが、現地では信頼できる人材2名を雇用し、日常の業務や連絡に当たらせている。フィリピンはGDP成長率が今後も毎年5~6%と予測され、かつ人口ボーナスにより堅調な住宅需要が見込める有望な市場であるとして、コミットメントを強めていくつもりだ。フィリピン住宅市場の先駆者として、今後も「安全で良質な日本住宅を広めたい事業者」と「低廉で良質な住宅を求める現地一次取得者層住民」をつなぐ存在として挑戦を続ける。

ゼオライト

 一方の嶋村氏はコスト競争力を高めるため、ベトナムのハノイかホーチミンに約1,800m2の敷地で工場を建設し、福岡の工場で製造している製品の一部をベトナムでの製造にシフトする計画を立てている。実現した場合、製造コストは国内の約半額になると見込まれており、競争優位性を高めることができる。現地で製造された製品を日本へ出荷することも視野に入れている。

 同社の「人財創り」の理念は海外事業においても柱であり、ベトナム人技術者の採用・育成に注力している。現在、ベトナム人材を専門とするエージェントを通じて採用したベトナム人スタッフ(28歳、勤続1年)を本社で教育しており、設計(図面書き)能力はわずか1年で目覚ましい成長を遂げている。この優秀な人材を5年後にはベトナムに戻し、現地での事業運営を任せることで、グローバルな体制を確立する。
 「やる気があればチャレンジできる環境」を標榜する同社。この積極的なベトナム人技術者の育成は、海外展開を担う若き人材を自前で育成するという明確な意思の表れである。

【茅野雅弘】


<COMPANY INFORMATION>
Ambitious Asia(株)

代 表:中島久雄
所在地:福岡市城南区飯倉1-6-27
設 立:2024年10月
資本金:980万円

ゼオライト(株)
代 表:嶋村謙志
所在地:福岡市博多区那珂5-1-11
設 立:1970年8月
資本金:9,000万円
URL:https://www.zeolite.co.jp

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