福岡県議会の海外視察やワンヘルス事業をめぐる問題が全国的な注目を集めているが、ついに蔵内勇夫議長の身内・自民党県議団の県議からも中立的な第三者委員会の設置を求める声が上がった。しかし県は、すでに客観性を担保した調査を行っているとして、「第三者委員会設置の必要性は認められない」との見解を示すなど、県行政や議会の多数が県民の声に耳を傾けない状況が続いている。
そのようななか、データ・マックス政治記者の近藤将勝が、6月議会において海外視察問題を取り上げた吉松源昭県議にインタビュー取材を行った。吉松県議はかつて自民党県議団に所属し、2020年6月から1年間、県議会議長を務めたが、現在は会派「自由と繁栄の会」の会長を務めている。
多くの県民の声を受けて質問に立った
──福岡県議会の海外視察問題などを、議会で取り上げた理由を聞かせてください。
吉松源昭県議(以下、吉松) 全国でも例のない異常な海外視察費用などに対して、多くの県民から批判の声があり、たいへん重要な問題でしたので取り上げました。西日本新聞(2025年12月22日付および27日付朝刊など)は、『【独自】福岡県議会の海外視察委託、1社が15件のうち8件契約』などの特集記事で、福岡県議会の高額な海外視察について報じました。議員1人あたり300万円を視察で使っているとの具体的な数字が出てきました。 もちろん私も海外視察の存在は知っていましたが、まさか1人あたり 300万円も使われていたとは知らなかったです。しかし、この問題の全貌は解明されていません。
仮にファーストクラスに乗って、仮に十数万の部屋に泊まったとしても、1人あたりの額は150万円~200万円ではないでしょうか。高額、贅沢と言われていますが、数字が合わず一体何に使われたのでしょうか。私が第三者委員会の設置を求めているのも、内部調査では限界があるからです。
現在、物価高や円安で庶民はハワイだけでなくアジア諸国にも行けません。そうした状況にある県民に何の配慮も思いもなく、議会質問で「打ち出の小槌のように」と申し上げましたが、このような税金の使い道に対して、多くの県民が「議員特権はひどすぎる」と怒っています。
西日本新聞の報道後、他のマスコミには、あまり積極的な報道がみられませんでした。私が 3月11日に予算特別委員会で取り上げるまで県議会のほとんどの議員が沈黙したままでした。このままでは、問題がうやむやにされてしまう、正さないといけないと考え、議会で質問しました。海外視察問題だけではなく、県職員部課長会のパーティー券購入問題や県議会の取材制限問題、ワンヘルスに関する講師料水増し問題など、次から次に新しい問題が出てきました。
応じる吉松源昭・福岡県議会議員
──6月17日の一般質問で部課長会のパーティー券問題やワンヘルス講師料の問題を取り上げられました。
吉松 3月の予算特別委員会での質問からわずか3カ月足らずの間に、パーティー券の問題、議会棟での取材制限の問題、ワンヘルス講演会の報酬の水増し問題などが次から次に浮上して、腹をくくりました。交渉会派(5人以上の会派)による議会プロジェクトチームの調査はお手盛りであり、県の調査も形式的なものです。多くの県民がそう思っています。このままでは県議会議員に対する県民の信頼は失われてしまいます。地元の有権者からも「海外旅行に無駄な予算を浪費するような県議会はいらない」などと言われており、私は県議の一員としてやっぱり矜持を示さないといけないと考えました。
独立した第三者委員会を設置して調査すべき
──行政と議会は二元代表制で、行政が強すぎるのも問題が生じます。
吉松 おっしゃるように、本当に議会がチェック機能を発揮しなければ、行政は暴走することが起こりえます。だからこそ議会は本来ちゃんとチェック機能を担う役割がありますが、県のチェックができていないどころか、自分たちのチェックもできていないありさまです。
私が提案したように日本弁護士連合会(日弁連)のガイドラインに基づく第三者委員会を設置すべきではないかと服部知事にも訴えましたが、住民監査請求に基づく監査や顧問弁護士の助言を受けた調査をしており、予算・時間がかかるとして設置を否定しました。
──吉松県議も自民党県議団にいた時期、海外視察に行く機会は?
吉松 もちろんありましたよ。ただ、私は公費で行ったことは1~2回しかありません。一部政務調査費を活用しましたが、基本的に自費ですよ。
また、私は参加していませんが、25年に実施されたハワイへの視察では、航空機はビジネスクラスを利用し、宿泊先には「シェラトン・ワイキキ」など全室スイート仕様の高級リゾートホテルが選ばれたと報道されています。一泊10万を超えるような部屋に宿泊していた実情は知らなかったのかという点についてですが、公費で参加しているほかの議員がどんな部屋に泊まっているのかは、確認しませんからね。
私が数年前行ったときは、自分で予約した一泊5~6万円の部屋でした。それでも立派な部屋ですよ。シングルの部屋はないホテルだったので、ベッドが2つの部屋でした。公費支出の対象となる議員は、議長と議長が指名した会派の代表です。交渉会派である自民党県議団・公明党、民主県政県議団、新政会(旧・緑友会)の代表です。
「政治とカネ」の問題に厳しい公明党が沈黙を貫いているのは、少ない回数とはいえ、自分たちも参加していたからでしょう。
自民党県議団からも出始めた是正の声
──県議会87人のうち、吉松県議以外に議会で一連の問題を取り上げた県議は?
吉松 日本維新の会の塩生好紀県議と、無所属の会の新開嵩将県議がXで問題提起していました。議会のなかで明確に発言したのは私と塩生君だけですが、心のなかではおかしいと思っている議員は少なくないと思います。一般質問の割り当て時間は、議員1人あたり8分で、今回、私が16分喋りましたが、中村明彦県議から持ち時間の8分をいただいて質問しました。もちろん中村県議も私と同じ問題意識をもっておられます。
──主要会派の議員も個別に話を聞くと、ご自身の思いや考えを述べられます。
吉松 昨日(6月22日)、福岡県議会の総務企画地域振興委員会が開催されましたが、議会運営委員長を務める板橋聡県議(自民党県議団)が、「日弁連のガイドラインに基づいた第三者委員会を設置すべきでは」と質問しました。私も傍聴していましたが、驚きました。委員会後に県の職員や議会関係者に、「板橋県議の質問は、事前に県議団の了承を得た話だったのか」と尋ねましたが、執行部も県議団も何も聞いていなかったようです。執行部側も自民党県議団も「一体、板橋県議は何をやっているのか」という雰囲気のようです。初めて主要会派から公の場で問題提起した発言ではないでしょうか。
──板橋県議のお父さんも県議で議長(1998年5月~99年4月)を務められました。
吉松 板橋県議のお父さんの板橋元昭・元議長も誠実・温厚な方で、聡県議も正義感が強い議員です。議会運営委員長は議長への登竜門で、来期の議長就任が期待されるなかでの発言だけに、衝撃の展開でした。蔵内議長が第三者委員会の設置を明確に否定した数日後の発言ですからね。
公明や民主が蔵内体制に意見がいえない理由
──公明だけでなく、国政では自民と対峙する民主系も一言も言及しません。
吉松 数期にわたり民主県政県議団は、副議長のポストについていました。これは民主会派出身の重鎮と蔵内議長の関係が大きいという話があります。副議長だけでなく委員会の委員長ポスト、副委員長ポストも自民党の賛成なしには得られません。公明党は、前回県議選(2023年4月)の筑後市選挙区で蔵内県議の対立候補を応援しました。その結果、選挙後2年間、1つも委員長・副委員長ポストをもらえませんでした。
──社会党・共産党推薦の奥田八二県政(1983~95年)から麻生渡県政(95~2011年)になって、長年オール与党状態が続いており、現在は共産党の議席もありません。
吉松 ポストだけではなく、たとえば国に地方の意見を送る意見書について、議会で通らないと国に意見書を送ることができません。民主県政県議団は会派の数だけでは意見書は1本も通せない。公明党も同様です。自民党の協力があって初めて意見書を提出することが可能となります。自民党と仲が悪ければ、自分たちが出した意見書は1本も通らない。4年の任期中1つも実現しないこともあり得ます。でも仲良く連携しておけば、ほとんどの意見は議会で可決します。イデオロギー的に自民党が同意しないことももちろんあるから全部ではありませんが、人権や多様性尊重の意見書も可決しています。
国と地方議会が決定的に違うのは、地方議会の場合は首長対議員の構図で、相対している相手が知事です。国政では党と党が相対するから、政党同士が与野党に分かれて正面からやり合うことになりますが、地方議会の場合は対執行部で、政党や思想を超えて連携することもあり得るのです。
──民主会派は「九州の自立を考える会」の役員を務める重鎮が現在も強い影響力をもっています。
吉松 内部の事情は詳しくわかりませんが、民主会派は、立憲民主党・国民民主党・社民党・無所属の議員で構成されており、自民からすると党別でなく、会派でまとまってもらったほうが話を進めやすい面はあると思います。
──一連の問題で出てきたメディアに対する報道規制の話は、記者クラブ加盟社に対する規制なので、当社のような記者クラブ未加盟社にはそもそも関係ない話ですが、それでも容認できるものではありません。
吉松 報道規制はあってはならないことです。さすがに私もX上で反対表明を行いました。憶測は述べませんが、何らかの人が指示を行い、こういったかたちのものをつくれという指示が行われたと思います。それを議会事務局が文書化しただけだと思います。従って議会事務局の責任とは言い切れないと思います。もちろん「この内容はまずいですよ」ぐらい事務局は意見を述べるべき立場にありますが、議会事務局と議会はそれがいえるような力関係にありません。直言したら左遷されることもありえます。県議会と議会事務局の関係は民主的な関係にありません。
──議員同士の慣習・慣行も昔から一般社会と違うルールがあったようですが…
吉松 野球やサッカー、ゴルフなどのクラブ活動がありますが、参加しないと非協力的だという目で見られるんですよ。 もちろん党活動ではありませんが、会派の活動に非協力的、あるいは協調性のないやつだというレッテルを貼られてしまうので、若手はほとんど参加します。私は野球もゴルフもまったくできなかったけど、ゴルフは超党派の飛梅会という集まりがあり、毎議会ごとに行われています。本来ゴルフが好きな人たちが懇親でやる集まりで、もちろん費用は全額自分で出しています。しかし、自民党においては、それをきっかけにゴルフを始めることになり、半ば強制的な面があります。
飲み会もアルハラになるので、任意ですが、自民党だけでなく民主会派でも、酒好きな重鎮県議がいて、しょっちゅう酒席に付き合わされていたという話は聞いたことがあります。
服部知事は毅然と議会と向き合うべし
──ワンヘルスについてですが、理念は重要と思いつつ、県営筑後広域公園のモニュメントや学校教育など事業範囲や公金支出の妥当性に疑問があります。
吉松 蔵内議長の地元・県営筑後広域公園に建てられた「ワンヘルス・カーボンゲート」は3億円の予算が使われています。県の公金支出の在り方としてはたして適切なものでしょうか。学校教育のワンヘルス副読本についても私から見たらまるで北朝鮮か中国ですよ。 洗脳教育と変わりません。これらは利権構造と言って差し支えないと思います。アクロス福岡にあるアジア獣医師会連合(FAVA)のワンヘルス福岡オフィス(FOF)の家賃は全額県が支出しているとのことで、癒着といわれても当然のことだと思います。全国の都道府県議会でも行われていない海外視察にしても、世界獣医師会会長選のロビー活動の一環ではなかったでしょうか。きりがないほどさまざまな問題がありますが、多くの県民は税金の使われ方に大変怒っています。
──お話を聞いて、執行部と議会の関係性が一方的すぎると感じました。知事部局と議会の関係がどのようにあるべきと考えますか?
吉松 まさに二元代表制であるべきです。県は県で、県民に選ばれた知事がリーダーシップを発揮していくべきであり、一方の議会も県民に選ばれた議会議員として、しっかりものを言っていかなきゃいけない。 たとえば麻生渡知事の時を思い返すと、自民党をはじめ議会側は知事にさまざまな要望をしていました。しかし麻生知事は、ときには毅然とした態度で対応しておられました。是々非々で議会の要望は聞くけど、違うところは違うと意見を述べておられました。小川洋知事も、自民党県議団と対立し、対抗馬を擁立されたりしながら、是々非々を貫きました。
ところが服部知事からは、強力なリーダーシップが感じられません。やっぱり知事がしっかりしなくちゃいけない、県民もしっかりした知事を選ぶ必要があると思うのです。議会側が手を抜くことは行政の怠慢や暴走を許すことになり、県民にとって不幸なことになりかねません。
「世界獣医師会会長ワンヘルス特別賞」受賞を服部知事に報告する蔵内氏
出所:九州の自立を考える会ホームページ
出所:九州の自立を考える会ホームページ
【近藤将勝】
<プロフィール>
吉松源昭(よしまつ・もとあき)
1968年糟屋郡須恵町生まれ。87年福岡大学附属大濠高校を卒業。92年行政書士事務所を開業。96年衆議院議員秘書、2002年福岡県議会議員秘書を経て、03年福岡県議会議員初当選。08年障がい者施設理事、更生保護施設理事。17年自民党福岡県支部連合会政務調査会長、県土整備委員会委員。20年6月から1年間、第70代福岡県議会議長を務める。24年10月の衆院選福岡4区に無所属で立候補し落選。同年12月の福岡県議・糟屋郡補選で再び県議となり、現在、会派・自由と繁栄の会の会長。








