加熱する半導体覇権競争 ただし、中国が過剰な対抗措置を取れない理由
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国際政治学者 和田 大樹
世界の分断が進むといわれるなか、今日、台湾情勢と同じように米中間では先端半導体をめぐる覇権競争が激化している。中国は8月に入り、半導体の材料となる希少金属のガリウムとゲルマニウムの輸出規制を開始した。今後ガリウムなどを諸外国へ輸出する際、企業は事前に許可を求め当局に申請することが義務付けられ、違反した場合には罰則が科される。中国は世界のガリウム生産量の約9割、ゲルマニウムの約7割を占め、日本はそれを中国に依存しており、日本企業は今後中国当局がどれほど強く規制してくるかを注視している。しかし、今のところ、中国による規制の影響は限定的との見方が強い。
この先端半導体をめぐる覇権競争も含めて、今日、日本企業の間では「もう中国ビジネスはやりにくい」といった風潮が広がり、脱中国依存を進める企業も増えている。その一方で、中国による対抗措置を不安視する企業関係者も多い。だが、筆者は中国にも過剰な対抗措置を取れない事情があると考える。
その1つが、先行きが不安視される国内経済だ。国家統計局の発表によると、16歳から24歳の若年層の失業率が5月に20.8%と過去最悪を記録。約3年続いたゼロコロナ政策で若者の雇用事情はいっそう厳しくなり、近年中国の経済成長率は鈍化傾向にある。そのような中、仮に中国が欧米や日本に対して厳しい貿易規制に出れば、今日ただでさえ広がっている外資の脱中国依存によりいっそう拍車がかかる恐れがある。中国は米国政治、ホワイトハウスには安全保障や経済で強気の姿勢を貫いているが、以前にビル・ゲイツやイーロン・マスクなど大物経営者たちが相次いで訪中した際は、熱烈に歓迎した。ゲイツに至っては習近平・国家主席と会談した。これは外資離れを警戒する中国側の本音であり、外資の撤退によって国内経済の鈍化に拍車がかかり、若年層の社会的、経済的不満が高まり、その矛先が共産党政権に向くことを警戒している。
もう1つが、1つ目とも関連するが、中国を見る国際社会の目である。今日の習政権は自らが大国であることを自認し、いつかは米国を追い抜くことを視野に入れている。しかし、中国がよりいっそう国際社会で影響力を確保したいのであれば、“国際的評判”を意識せざるを得ない。近年、米中による覇権競争がさまざまな地域で展開されているが、中東やアフリカ、東南アジアや南アジア、中南米などのなかには、中国との経済的結び付きが強い国もあれば、米中どちらに寄るべきか、大国間対立とは距離を置くことを考えている国も多い。そういった際、国際的評判を意識せざるを得ない中国としては、過剰な対抗措置を繰り返せば、かえって経済的威圧と受け止められ、「やはり経済で中国一辺倒はリスクだ」「やはり欧米との関係を維持しよう」などと、グローバルサウスのなかからも中国離れが進む可能性がある。欧米との関係が悪化する中国としては、今後世界経済で影響力を高めるグローバルサウスとの関係は、絶対に維持する必要がある。
こういった2つの背景をみても、中国には中国なりに難しい事情があり、台湾有事などのシナリオを除けば、今後中国側からの対抗措置は影響が限定的なものになる可能性が高い。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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