【トップインタビュー】6年半ぶりの国際線定期便再開 北九州の空から地域経済のさらなる発展へ
(株)スターフライヤー
代表取締役社長執行役員 町田修 氏
北九州空港を拠点に旅客航空事業を手がける(株)スターフライヤー。2026年9月2日、コロナ禍で運休していた「北九州-台北(桃園)線」の運航を、国際線定期便として約6年半ぶりに再開した。運航再開の狙いと展望、そして今後の組織づくりについて、同社の代表取締役 社長執行役員・町田修氏に聞いた。
※インタビューは26年8月25日に実施したもの
約6年半ぶりの国際線定期便再開
──現在の(株)スターフライヤーの利用客層と、路線・機材の状況について聞かせてください。
町田修氏(以下、町田) 現在は国内線が中心のため、日本人のお客さまが多くを占めていますが、コロナ禍収束後はインバウンドの利用も増えています。現在は6路線を11機で運航しており、2025年10月に就航した福岡-仙台線にも手応えを感じています。
──円安や原油高の影響や直近の業績についてはいかがですか。
町田 大幅な円安と原油高が続くなか、国内線だけで安定した利益を出し続けることは困難です。利益率の高い国際線へビジネスのウエートを移すことは、今後の存続に向けて避けて通れない経営判断だと考えています。
業績面では、コロナ禍が収束し始めて以降、売上高は順調に回復し、26年3月期には過去最高の447億9,500万円を計上しました。ただ、原油高や大幅な円安などの外部要因により、運航・機材にかかるコストがかなり膨らんでおり、利益面は完全に安定しているとは言い切れない状況です。しかし、順調に営業利益を確保できる体質へと回復しつつあります。累積していた赤字も解消することができました。
──国際線定期便「北九州-台北(桃園)線」を約6年半ぶりに再開します。このタイミングで国際線の定期便を再開したのはなぜでしょうか。
町田 私が22年に社長に就任した当初から、国際線の再開時期について検討を続けてきました。国内線だけでは経営環境がますます厳しくなるため、国際線への再進出は中長期的な必須課題でした。
ただ、旅客数がコロナ前の水準に戻ったという理由だけで再開することはできません。まずは財務体質の強化を優先し、安定して収益を上げられるかを徹底的に検証しました。この1年半ほど、近距離アジアのさまざまな候補地を挙げ、収支計算を何度も重ねました。その結果、現段階では北九州-台北(桃園)線が最も確実だと判断し、再開に踏み切りました。
──運航再開を前にした予約状況はいかがですか。
町田 事前の予想どおり、順調に推移しています。現段階では台湾から来日するインバウンドが中心ですが、日本から出発するアウトバウンドの予約も入っており、双方向のバランスが取れつつあります。利用者だけでなく、台湾と日本国内の旅行代理店からも反響をいただいています。
──旅行代理店からは、どのような反響がありますか。
町田 「是非スターフライヤーの座席を販売させてほしい」という熱心なアプローチをいただいています。福岡空港では国際線が増えた一方、海外の航空会社の座席枠を日本国内の旅行代理店が十分に確保しにくい状況があります。旅行商品を売りたくても航空券を確保できないという問題があり、北九州-台北(桃園)線の再開は、国内の旅行代理店にとっても追い風になると考えています。
──アウトバウンド需要の獲得も重視していますね。
町田 検討段階から営業部門には、「インバウンドだけに頼らず、アウトバウンド需要の獲得にも最大限取り組むように」と強調してきました。旺盛なインバウンド需要を取り込むだけでなく、日本から海外へ行くお客さまも確保し、双方向のバランスを保たなければ、路線を長期的かつ安定的に維持することはできません。現在の予約状況には、そうした営業活動の成果が表れていると感じています。
次なる国際線の拡大と足元の人材確保
──今後の路線展開を教えてください。
町田 北九州-台北(桃園)線は、深夜・早朝帯のダイヤで、週末しか休みが取れないレジャー客の需要を狙っています。将来は日中の時間帯を含む便数の拡大によって、ビジネス需要も取り込みたいと考えています。27年夏ダイヤ以降の新規路線についても、社内で検討とシミュレーションを進めています。具体的な国や都市名はお伝えできませんが、前向きに準備しているところです。
──路線拡大に向けた人材確保の状況はいかがですか。
町田 コロナ禍などの環境変化で30歳前後の中堅層が一時期抜けたため、この層がやや不足しています。現在は中途採用を強化しています。CAや地上旅客スタッフの採用は比較的順調で、必要な人材を確保できています。
──最も厳しいのが整備士の確保とうかがいました。
町田 パイロット志望者は、「パイロットになりたい」という明確な目標をもって航空業界に入るため、他業界へ流出するケースはまれです。一方、工業高校や専門学校で機械・電気を学んだ整備士候補は、自動車、重工業、鉄道など幅広い産業との人材獲得競争になります。そのため、ここ数年は整備士の確保に非常に苦労しています。
ただ、当社の最大のアピールポイントは「ブランド力」と「世界観」です。「スターフライヤーというブランドが好きだから、ここで働きたい」と、ブランドへの強い愛着を志望動機として、入社してくれる学生も多くいます。自分たちがどういう思いで、どういうサービスを提供しているのかというアイデンティティーを、SNSなどを通じて魅力的に発信し続けることが、人材獲得のカギだと考えています。
就航から20年 当初の哲学を貫く
──近年の旅客航空市場をどのように見ていますか。
町田 需要の二極化が進んでいます。希望する時間帯であれば多少高くても利用する利便性・サービス重視のお客さまと、安さを最優先するお客さまです。当社は安さだけで勝負するのではなく、高付加価値のサービスを求めるお客さまを獲得し、サービスに見合った運賃をいただくビジネスモデルを徹底していきます。
──そのこだわりの原点はどこにありますか。
町田 26年は、当社の就航20周年の年です。20年前、創業者たちは「今までにない新しい航空会社をつくる」という思いから、独自の高級感をもつスターフライヤーを立ち上げました。広いシートピッチ、黒の革張りシート、CAによる質の高いサービス、黒と白で統一した世界観を維持してきました。これが就航以来受け継いできた原点であり、今も変わらないこだわりです。
──北九州という土地との相性はいかがですか。
町田 北九州市は日本を代表する工業都市です。大手企業に加え、高い技術力をもつ中堅・中小企業が数多く集まっています。地元企業には台湾に工場をもつ会社や、台湾企業と深く取引する会社も想像以上に多くあります。この路線には、レジャーだけでなく、ビジネス出張需要も見込めると期待しています。
──24時間運用が可能な北九州空港の強みも大きいですね。
町田 福岡空港は市内中心部に近くて便利ですが、夜間の離着陸制限があります。北九州空港は24時間運用が可能で、夜遅いフライトにも対応できます。ビジネスでもレジャーでも、福岡だけでなく、山口や広島など周辺地域にも利便性を知っていただき、もっと利用していただきたいと考えています。
行政指導を転換点に
安全報告文化の再構築
──今年5月、国土交通省から厳重注意を受けました。経営トップとしてどう受け止めていますか。
町田 この機会に率直に説明させていただきます。発端は22年2月、航空機メーカーの技術資料が改訂され、乳幼児用救命胴衣の交換期限が短縮されたことでした。しかし、当時の担当者が改訂を見落としたため、同年8月に届け出た整備規程へ反映されませんでした。24年8月にこの事実が発覚しましたが、当時担当の部長(すでに退職)は当社の運用方法や保管状況から、実際の飛行の安全性に直接影響しないと判断し、適切な報告を行いませんでした。その結果、速やかな是正や社内、国土交通省への報告が行われず、整備規程への反映は25年3月まで遅れました。
──当時担当の部長による判断に加え、社内で問題を把握し、是正できなかった組織体制にも課題があったということでしょうか。
町田 担当者の意図がどのようなものであったかは別として、速やかに報告を行わなかったことは事実です。「隠していた」と受け止められても仕方のない、あってはならない事態であり、重大な過失だったと深く反省しています。
最も重く受け止めているのは、機材の物理的な問題ではなく、組織風土に根深い問題があったことです。どれほど些細な事象でも速やかに情報を共有し、国や社内へ正しく報告する「安全報告文化」が十分に機能していませんでした。「これくらいなら言わなくてもいいだろう」という自己判断を排除し、ミスや懸念点こそ全員で共有できる環境をつくらなければなりません。今回の行政指導を、組織風土を改めて見直す重要な転換点と位置づけています。
──具体的な再発防止策を教えてください。
町田 整備部門をはじめ、各現場のルールを改定し、運用を厳格化しています。組織風土の改革では、「縦・横・斜めのコミュニケーション」と報告・共有の徹底を進めています。疑問や不整合を見つけた場合は、部署の垣根を越えて上司や関係部署へ報告する文化を定着させなければなりません。技術的な是正にとどまらず、社員1人ひとりの意識を変え、安全を最優先する組織づくりに取り組んでいます。
航空ネットワークの拡大で
地域経済のエンジンに
──今後3~5年の中期的な目標を教えてください。
町田 国内線一本足の経営からの脱却は必須です。北九州-台北(桃園)線を契機に国際線ネットワークを積極的に拡大し、中期的には売上高に占める国際線の比率を2~3割程度に引き上げることを目指します。現在の主力である羽田-福岡線と羽田-北九州線という強固な国内線の基盤を維持しながら、国際線を新たな成長の柱として加え、会社全体の利益率と収益構造を高めていくことが基本戦略です。
──地域経済への貢献については、どのように考えていますか。
町田 旅客航空という社会インフラを担う企業として、北九州と各都市、そしてアジアを安全かつ安定的に結び続けることが最大の地域貢献です。九州では半導体産業をはじめ、さまざまな分野で海外との連携が活発化しています。北九州空港の24時間運用という強みを生かして台湾やその他の国との航空ネットワークを拡大し、投資誘致、ビジネス交流、インバウンド観光の促進に直接貢献していきます。地域経済の活性化を支える「エンジン」となることが、当社のはたすべき役割です。
──今後、地元・九州の企業や利用者に、北九州空港とスターフライヤーをどのように活用してほしいと考えていますか。
町田 北九州空港は24時間運用が可能で、ビジネスにおいて高い利便性をもつ空港です。そして、そこに拠点を置く当社は、皆さまのご出張やプライベートの旅を快適にする、独自のこだわり抜いたサービスと座席を提供しております。ビジネスのパートナーとして、また北九州・九州全体をともに盛り上げる存在として、北九州空港とスターフライヤーを活用していただきたいと考えています。利用を通じて双方向の交流が活発になり、地域経済の発展につながることを願っています。
【若松大生】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:町田修
所在地:北九州市小倉南区空港北町6
設 立:2002年12月
資本金:20億7,900万円
売上高:(26/3)447億9,500万円
<プロフィール>
町田修(まちだ・おさむ)
1956年7月生まれ。87年に全日本空輸(株)へ入社し、スカイネットアジア航空(株)常務取締役、ANAウイングス(株)取締役、全日本空輸香港支店長などを経て2022年6月に(株)スターフライヤー代表取締役社長に就任。









